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- 「騒音・振動」について理解するための入門書としてどのようなものが出版されているでしょうか。(公立大学大学院生)(Vol.40 No.2)
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Vol.40 No.2
(一般財団法人小林理学研究所 廣江正明)
「騒音・振動」 と言っても取り扱う問題は幅広い。現象の理解から始まり,計測機器や測定方法にその評価, 低減対策までを詳細に扱った書籍はすでに入門書の域を超えています。 そんなものを選んでも本棚を彩るだけで読まれないでしょう (実際, そんな本棚が私の横にもあります)。
という訳で, ここでは, ①基礎からしっかり知りたい方の為の本, ②広範囲を網羅したい方の為の本, ③特定範囲又は少し異なる視点で見たい方の為の本の3つに分け, それぞれに適した専門書や専門雑誌の記事等を紹介しましょう。
① 基礎からしっかり知りたい方の為の入門書:
「音と音波」(小橋豊著:裳華房)は学生時代に音響学の基礎を学んだ時の教科書で, 音の定義から,振動と音,放射・伝搬,音場,聴覚・音声,音楽・楽器,超音波まで幅広く書かれています。音や振動の方程式など少し難解な数式も出てきますが, 図表や写真も多く, 全体で200頁程度なので, 初めて読む入門書と してはお勧めです。
「振動・波動」(有山正孝著:裳華房)は,「音と音波」と同じ「基礎物理学選書」の一つですが,振動や音波に関する方程式が山のように出てくる上に,ボリュームも280頁で, かなり読み応えがあります。 やる気と時間のある方にはお勧めですが, 十分な余裕がない方や, 数式に拒否反応をお持ちの方は避けた方が無難かもしれません。「音響工学原論(上巻・下巻)」(伊藤毅著:コロナ社)は, もともと新制大学で電気通信工学を専攻する学生のために書かれた音響工学の教科書で, (上巻)理論音響学と (下巻)応用音響学の二編に分かれています。入門書としてはかなり重い一冊(実際は二冊) ですが, 理論式で使用する量記号とその単位がきちんと整理されていて, 物理的な意味を理解する上でとても役立ちます (既に絶版ですが, 早大音響情報処理研究室HPに電子版が公開中です)。
② 広範囲を網羅したい方の為の入門書:
「騒音工学」(五十嵐寿一・山下充康共著:コロナ社は,専門外の方々が騒音の測定・評価,対策に従事されることを前提に,音響の概論,測定・影響と評価, 防止技術などについて,難解な数式を使うことなく,分かり易く説明した一冊です。すべての分野を網羅していませんが (主に交通騒音, 工場音),200頁程度で読破し易い分量になっています。「環境・建築音響学」(前川純一・森本政之・阪上公博著:共立出版)が取り扱っている分野は,音と聴覚,騒音・振動の測定・評価,室内音響,吸音材料,騒音の屋外伝搬と防止,空気伝搬音・固体伝搬音等で, 大変幅広い。 初めて音響学に接する学生や技術者を対象とした入門書の役割も果たせるように考えられた一冊です。 ボリュームは250頁程度で少し多いように感じますが,分野数の割にコンパクトにまとめられています。
③ 特定範囲又は少し異なる視点から見たい方の為の入門書:
会誌「騒音制御」は(教科書ではありませんが),本学会が隔月で発刊している学会誌で, 毎回, 騒音・振動に係る5∼10編の特集記事が掲載されています。 同じ分野でも扱うテーマによって記事の内容が異なるのが特徴です。 例えば, 少し古い記事になりますが,環境振動の基礎知識(35巻2号,2011年4月発刊) は当該分野を理解する上では教科書以上に参考になると思います。他にも様々な特集がありますので,本学会HPの学会誌/出版物→学会誌「騒音制御」 の特集題目一覧で探してみて下さい。
「騒音の歴史」(マイク・ゴールドスミス著,泉流星・府川由美恵訳:東京書店)は一風変わった本で,一般的な技術書ではなく, 様々な種類の騒音についてまとめられた歴史書です。著者は英国の著名な研究機関であるNPL (National Physical Laboratory)で室長を務めた経験をもつ科学者で, 騒音をめぐる物語を紡ぐことに主眼を置いてこの本を執筆したそうです。 ですので, 理論的アプローチとは違った,まったく別の見方で騒音問題を眺めている,(ある意味…) マニア向けの一冊です。
「音響キーワードブック」 (日本音響学会編:コロナ社)は, 音のもつ様々な側面を表すキーワードを厳選し, 日本音響学会が編集した解説集で, 先月末に発行されたばかりの最新書籍です。 キーワードには「騒音・振動」分野以外のものも含まれますが,2頁単位でまとめられた各解説記事は分かり易く,内容も充実しています。現在, 取り組み中の 「騒音・振動」の研究に関連する最新情報や今後の課題などを知ることができるので, とても便利な一冊ではないでしょうか。
以上, ここに挙げた書籍は「騒音・振動」に係る入門書の一部に過ぎませんが, 参考にして頂ければ幸いです。
- 「音響インテンシティ法において,入射エネルギーの測定は可能ですか。また,拡散音場でも可能ですか。」
(匿名) -
(日本IBM 君塚郁夫)
音響インテンシティー法と言えば,音源から発する音響パワーを計測するための手法と考えるのが一般的です。そのための計測機器,インテンシティプローブの仕様がIEC 61043(一致規格,JIS C 1507が発効予定)として,また,測定方法がISO 9614-1及びISO 9614-2(同じく,一致規格,JIS Z 8736-1及びJIS Z 8736-2)として標準化されています。上記のISO規格においては,音源の取り囲む形で測定面を設定し,その面を通過する音響インテンシティーの平均(次元としてはW/m2)に,その測定面の面積(同じくm2)を掛け算して音響パワーを求めています。
これらの機器・手法のある種の応用として,音響エネルギーの計測も当然可能と思われます。具体的には,求めたパワーを観測時間(測定時間)で積分すればよいわけです。本当は逆で,測定時間中の音響エネルギーの時間平均が音響パワーであるわけです。
ただ,これはある音源から放射される音響エネルギーの求め方であり,どこかから入射してくる音響エネルギーとなると,少し趣が違ってきます。つまり,入射してくる方向に対して垂直な測定面を設定し,その面を通過する音響パワーから音響エネルギーを算出することになります。
音響インテンシティーはベクトル量であること,すなわち,大きさだけでなく,向きに関する情報も持っている訳で,入射音響エネルギーを求めるとは,測定面に垂直に入射する音響エネルギー成分の測定をすることになります。
この測定を拡散音場内で行うとした場合,測定面に垂直な音響インテンシティーが測定可能であれば,原則,可能と思われます。ただし,これも程度問題であって,理想的な完全な拡散音場があったとした場合,困難かも知れません。その目安としては,ISO 9614シリーズ(同じく,JIS Z 8736シリーズ)の音場指数等々を参考にし,音響インテンシティーが計測可能であるかどうかを見極める必要があります。
- 防音壁による回折減衰に関して、 前川曲線と日本音響学会の道路交通騒音予測式のαd との違いについてその理由を教えて下さい。
(計量証明事業会社 社員) -
((財)小林理学研究所 松本敏雄)
防音壁の回折減衰については、実験を基に作成された簡易図表から回折理論 に基づいてより精密な計算を行う方法まで、いろいろな条件に対して多くの計 算方法がこれまでに提案されています。
この中でも前川チャート(前川曲線)は、厳密な計算をしなくても回折効果 を容易に求められるという簡便性と特定の条件を除いて実験値によく合うとい う信頼性から、環境アセスメントを始め、種々の騒音防止設計に広く利用され ています。このチャートは前川が自由空間において、無指向性の点音源から放 射される音に対して厚みのない半無限に広がった障壁を想定して実験的に求め たもので、減音量を一本の直線で表現しています。このチャートの縦軸は減音 量で、障壁の有無による音圧レベルの差を表し、横軸はフレネル数という障壁 の有無による伝搬経路の差(行路差)を音の半波長で割った数で表されていま す。
一方、昭和50年に発表された日本音響学会の道路交通騒音予測式、いわゆる 音響学会式における回折補正値αdのチャートは、道路交通騒音に対する回折 による補正値を求めるための計算図表です。このチャートは、山下らが、自由 空間において、非干渉性の線音源から放射される音に対して厚みのない半無限 に広がった障壁を想定して実験的に求めた道路交通騒音に対する回折による補 正量です。このチャートの縦軸は回折補正量で、横軸は行路差です。
以上のように、前川チャートと音響学会式のαdのチャートは、ともに防音 壁の回折による減音量を求めるための計算図表ですが、前者は点音源を前提と して、入力には周波数と行路差が情報として必要となります。後者は道路交通 騒音を対象とした線音源を前提として、交通量と速度が予測式の適用範囲内の 場合において、行路差のみで回折による減音量を求めることができます。この ように、両者は対象とする音源の性状により使い分ける必要があります。