Q&A
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- Q-1:騒音の国際規格はどのようにして作られるのですか。
Q-2:TC43(音響)の国際標準化活動の枠組みを教えてください。
Q-3:日本はどのような体制でISO/TC43の審議に参加していますか?
Q-4:国際規格にはどんな種類がありますか?
Q-5:規格作成の手順を教えてください。(Vol.40 No.5) -
Vol.40 No.5
(空港環境整備協会 山田一郎)
A-1
音響分野の国際規格は、国際標準化機構(ISO)の第43番目の専門委員会TC43(音響)が作成の責務を担い、音響現象の発生・伝搬・受音、それが人や人の生活環境に及ぼす影響のあらゆる側面の測定法を対象にして通則的、基盤的な国際規格を作成しています。ただし、音響測定器の電気音響特性の規格化はIEC、音声符号化等の通信放送関連の規格化はITUが行っています。
A-2
TC43には本体の他、3つの分科委員会SC1(騒音),SC2(建築音響),SC3(水中音響)があり、分かれて活動しています。本体は音響の基礎と聴覚特性に関する規格、SC1は様々な環境における様々な音源が発生する騒音の測定方法や音が人に及ぼす影響を評価する方法を含む騒音分野のあらゆる側面の規格、SC2は建築音響学、建築材料・建設の音響特性、建物内の音響伝搬を含む建築音響分野の規格、SC3は自然・生物・人為のすべての活動に伴って発生する水中の音を対象にその発生・伝搬・受音、および海底・海面・水生生物を含む水中環境による音の反射と散乱、さらに水中環境、人そして水中生活への水中音の影響に関わる水中音響分野の規格を作っています。TC43が作成した規格は200件に及び、およそ75件の新規作成または改訂に関わる審議が進行中です。活動中の作業項目の比率は、本体12%、SC1が50%、SC2が27%、SC3が11%です。TC43の活動主体は、各国の試験機関、研究所、大学、健康や安全に係る組織、コンサルタント、自動車・測定器のメーカーです。TC43の作業グループWGに参加する専門家は、約450名、欧州71%、北米14%、アジア8%です。TC43の規格は音の肯定的側面から否定的側面まで及び、貿易や仕事、製造を通じて経済と深く結びつき政府や製造業界、消費者、労働者、国民全体に影響します。
A-3
日本工業標準調査会(JISC)がISO加盟団体となりISO規格の審議に参加していますが、音響分野の専門性により、日本音響学会に審議団体を務めることが委ねられています。
A-4
ISOが作成する要素成果物(deliverable)は、ISO規格 IS、一般公開仕様 PAS、技術仕様 TS、技術報告 TR、ISOガイドおよび国際集会合意IWAの6種類あります。ISは共通かつ繰返し活用を前提に活動や活動結果に関する規則、指針、特性を提供するもので加盟国が合意承認した文書、PASは緊急を要する市場のニーズに答え、外部機関またはWG専門家の合意した事項を記した文書、TSは国際規格を目指すが支持が十分でないもの、合意に疑義あるもの、技術的に開発途上のもの、TRは収集したデータを有する文書、ガイドは規定ではない事項について方向付けやアドバイスを与えるものです。
A-5
TC43は、概ね一年半ごとに総会を開き、作成する規格や審議の進め方について討議し議決して活動しています。加盟国等から提案される新たな規格の作成または既存規格改訂の作業項目が総会で承認されると、主査と専門家で構成するWGが構築され、準備段階を経てWGおよびTCの規格案文書(作業グループ案WDおよび専門委員会案CD)が作られ、合意に達するまで作業が続けられます。その後、文書は国際規格案DISとなってISOの全加盟国の投票に掛けられ、議決権を有するPメンバーの2/3が賛成し、反対が全体の1/4以下ならISO規格として承認されます。加盟国の意見を考慮し、最終国際規格案FDISを作成し、投票にかける時もあります。承認されれば、ISOの中央事務局CSが最終チェックし、国際規格として出版します。標準的な開発期間は36カ月です。
- 騒音計の検定ではどのようなことが行われているのか?(Vol.39 No.3)
-
Vol.39 No.3
産総研 高橋弘宣
計量法では,取引・証明行為に用いる計量器のうち,適正な計量の実施を確保するために計量器の構造(性能や材料の性質を含む)や器差を定める必要があるものを「特定計量器」として定めており,騒音計も特定計量器の一つです(法2条第4項,令第2条).特定計量器の「検定」とは,特定計量器に要求される構造と器差の試験を行い,計量法の定める基準に適合するかを検査することです.
検定の内容は2つに大別できます.1つは構造が技術上の基準に適合するかの検定(構造検定,法第71条第1項第1号),もう1つは器差検定(同第2号)です.構造検定では,騒音計本体に記すべき事項(騒音計の種類,騒音レベルの計量範囲や使用周波数範囲など)の確認,性能(環境に対する安定性,周波数特性,指向特性,動特性,自己雑音,目盛標識誤差,レンジ切替器など)を試験します.器差検定では,騒音計の器差が検定公差以下に収まっているかを試験します.騒音計だけでなくすべての特定計量器に共通する検定の項目は特定計量器検査規則(検則)の第7条から第16条に,騒音計特有の項目は同第20章(第814条から第849条)に規定されていますので詳細は検則をご覧ください.
図1は騒音計の検定の流れを表しており,製造事業者による製造・販売の企画段階からユーザの手に渡るまでを順に示しています.本来は騒音計1台ごとに上述した検定の項目すべてを検査する必要がありますが,騒音計の構造検定では高湿度や振動にさらすなど耐久性に関する項目も検査されます.また,騒音計製造事業者の技術力が高いことをふまえると,全数を検定するのは非効率です.そこで,構造検定の大部分の項目を省略し合理化するために型式承認制度(法第76条から第89条)が導入されています.型式承認のための試験(型式試験)では,同一型式の騒音計3台を提出して構造に関する試験を行います.騒音計の型式試験は指定検定機関である一般財団法人 日本品質保証機構(以下JQAと称します)が行っています.型式試験に合格した騒音計の型式には国立研究開発法人 産業技術総合研究所が承認を与えています.
型式承認を得た騒音計は,1台ごとに検査が必要な項目についてのみJQAが検定(毎個検定)を行います.具体的には目盛標識誤差とレンジ切替器についての構造検定,ならびに器差検定です.目盛標識誤差では,騒音計のマイクロホン端子から音の代わりに電気信号を入力し,振幅を変化させたとき,この電気信号と表示値との対応関係を試験します.すなわち,入力する電気信号を騒音レベルに換算した値と騒音計表示値が,電気信号の振幅を変化させた範囲において許容範囲内で一致しているかを試験します.レンジ切替器では,レンジを切替えても騒音計の表示値が許容範囲内で一致しているかを試験します.検定に合格した騒音計には検定証印が付されます.
一方,騒音計の品質管理の方法が一定の基準を満たしている事業者は,申請により「指定製造事業者」の指定を受けることができます(法第90条から第101条).指定製造事業者
は一定水準の製造技術と品質管理能力を持っているので,型式承認を受けた騒音計を製造する時に検定と同様の基準で自主検査を行えば,JQAによる毎個検定に代えることができます.自主検査に合格した騒音計には検定証印と同等の効力を有する基準適合証印が付されます.
検定証印または規準適合証印の付いた騒音計はユーザの手に渡り取引・証明行為に使用されますが,以後は騒音計の検定の有効期限である5年ごとに(法第72条第2項,令第18条別表3) JQAによって検定に付されます.
なお,検則は計量器の技術革新に迅速かつ柔軟に対応するとともに国際規格との整合性を可能な限り図っていく観点から,検則の技術基準をJIS化して引用する形に改正が進んでいます.騒音計のJIS規格としてはIEC 61672-1, IEC 61672-2を翻訳したJIS C 1509-1, JIS C 1509-2があります.これらのJISは取引・証明行為以外に用いる一般の騒音計に対するJISであり,そのまま取引・証明に使用される騒音計へ適用するには過度な要求事項も含まれています.そこで,検則から引用できるようにJIS C 1509-1, JIS C 1509-2を修正・統合した「JIS C 1516 騒音計 –取引又は証明用」が2014年に制定されました.
JIS C 1516では精密騒音計を「クラス1」,普通騒音計を「クラス2」と置き換えて規定しています.使用周波数範囲はクラス2では従来どおり20 Hzから8 kHzですが,クラス1では16 Hzから16 kHzに拡張されました.JIS化に伴い騒音計に要求される性能や試験方法は厳密になっています.環境に対する安定性の項目として,静圧や静電気放電などの規定も追加されています.また音響校正器によるレベル指示値の調整だけが認められることとなりました.
毎個検定の項目のうち,目盛標識誤差とレンジ切替器はレベル直進性に統合されました.また器差検定を行う周波数が 125 Hz,1 kHz,4 kHz,8 kHzに変わり,かつ周波数ごとに器差を検定公差と比較する方法へ変わりました.改正検則ならびに関連法令は,平成27年4月1日に公布されており,同年11月1日に施行される予定です.
(注)「法」は計量法,「令」は計量法施行令を指します.
図1: 取引・証明行為に使用する騒音計の製造販売の企画段階からユーザが使用するまでのフローチャート (注)制度上は点線部のルートも存在するが,検定に合格している騒音計はすべて型式承認を取得しているため運用実績は無い.
- 騒工場騒音規制について教えてください。1) 規制基準とはどの位置での値でしょうか。2) 特定施設のない工場については、規制はないのでしょうか。3)既存工場で特定施設を新規に導入した場合、どのように考えるべきでしょうか。(Vol.29 No.7)
(騒音防止管理者) -
(東京都環境科学研究所 末岡伸一)
規制基準は、発生源側の基準値であることから、当該工場の最も外側である敷地境界で測定評価し、工場等が立地する区域ごとに定められた基準値が適用されます。この規制基準は工場等に対する規制であり、直接的には工場等の外側の騒音状況とは関係はありません。また、同一の工場等の敷地が2つの規制区域にまたがって立地している場合などは、敷地境界が含まれる規制区域ごとに判断されます。このような場合は、住居に最も近い敷地境界の地点が測定評価の対象とはならない場合も当然ありえます。なお、しばしば騒音対策が苦情からスタートすることから、苦情者宅の区域を考えがちですが、あくまでも規制基準は発生源側の基準であり、当該工場の敷地で考える必要があります。
特定施設の無い工場、すなわち届出の必要のない工場等について騒音対策が必要と認められる場合には、1)条例で規制対象を拡大する、2)工場等の規制とは別にたとえば一般騒音の規制基準を条例で定める、3)環境基準達成のために当該工場に協力を求める、4)苦情がでている場合は公害紛争処理法第49条に基づき調査・指導・助言等を行う、などで対処されています。
工場騒音の規制における特定施設とは、当該の工場が規制の対象になるかの判断に用いられており、規制の対象となる騒音は、特定施設を含む「工場からのすべての騒音」となります。たとえば、特定施設以外の運搬用の自動車や建物設備からの騒音も規制の対象となります。
なお、道路交通騒音など工場以外からの騒音が、規制基準よりも大きい場合については、当面の措置として、工場からの騒音が当該地域の騒音レベルを上昇させない範囲で騒音対策を求めるのが一般的です。
- 深夜営業での人のざわめきについては、どのような評価手法があるのでしょうか。(Vol.29 No.8)
(計量証明事業所所員) -
(東京都環境科学研究所 末岡伸一)
人のざわめき等は、歴史的にもっとも古い騒音苦情であり、現在の「軽犯罪法」もこの人声の規制を受け継いだ条項が存在しています。ただし、このざわめき等の測定法については、法令的に特に定められたものはありませんが、発生場所から区分して、1)屋外で発生、2)隣室での発生、が考えられます。
このうち屋外については、例えば駐車場での立ち話、ざわめき、嬌声などですが、地方公共団体の条例で、一般騒音の規制として実施している例があります。この場合は、通常の騒音規制と同様の手法で処理しており、波形により区分して俗にL5規制と呼ばれる手法で評価していますが、深夜等の場合が多く、測定し確認するのが困難な場合が多いのが現実です。
一般にざわめきなど人の声は、騒音レベルというより「気になる音」として苦情が多く、騒音レベルで何dBという手法が有効かの点については議論の多いところです。そのため、騒音レベルによる規制でなく、たとえば深夜に不特定の若者が集まるような施設は、住宅地への立地を規制するなど措置するのが適切と考えられています。
一方、後段の隣室のざわめきについては、例えば集合住宅等で隣の部屋からの話し声、カラオケなどが考えられますが、明確な測定評価手法は定められておりません。しばしば敷地境界の概念を拡張して法令の手法を適用しようとする場合がありますが、集合住宅における敷地境界の概念には無理があるといえますし、屋外と同様に気になる音であることから、単なる騒音レベルによる規制が有効とは思われません。
そこで、一部の地方公共団体では、対策の手引き等を作成するなど社会全体での合意形成に努力しているのが現状といえます。また、このような「音の漏れ」については、複数の公務員によりメロディーが聞き取れるかにより判別するなど、種々の努力がおこなわれています。
- 工場を新設する場合、周囲に住居などが存在しない地域でも騒音規制値は適用されるのでしょうか。(Vol.29 No.9)
(建設会社社員) -
(東京都環境科学研究所 末岡伸一)
騒音規制法及び振動規制法の規制は、都道府県知事が指定する地域に適用されるものであり、そもそも規制する意味の無い地域は、指定されないものと理解されております。この適用の判断は、単に住居等が何件あるかということだけではなく、海や川のリクリエーション施設で人々が集うようになったとか、地域の状況を総合的に考慮する必要があります。従って、騒音規制法における規制は、全国一律に適用されるものではなく、都道府県知事が規制する地域を指定することにより初めて適用されます。この指定は、住居等が存在し騒音を減少させ環境基準を達成するために規制を行なうものであり、一般的には環境基準の類型指定と対で指定するものです。
御質問の点で考えるならば、第一に、住居等のまったくない荒野等の場合です。この場合は住居や人の集まる施設が存在しているか又は近々に建設されるかなど、地域の状況を総合的に判断して指定すべきものであり、まったく規制の必要のない地域を指定する必要はありません。
第二に考えられるのは、特定の方向などが荒野や水面となっており、住民などが立ち入らないなど騒音低減の必要性が乏しい場合です。この場合は、現実に照らして対処するのが合理的で、工場には一般的な意味で騒音対策を求めた上で、当該地域における住居の立地状況の変化にあわせて順次対策を求めていくことになります。いわば、継続的に指導するということになり、緊急に騒音対策を求める必要はないと思われます。
なお、規制地域の指定は、行政区画単位に行なわれますが、一般に市町村境界には地先水面が含まれておりますので、市町村単位の指定においては、特段の明記が無い限り地先水面が自動的に指定されることになります。一方、町丁目単位での指定においては、地先水面は含まれませんので、必要な場合は「地先水面を含む」という記述が必要となります。
- 騒音調査の初心者です。どんな本を読めばいのでしょうか。
(調査会社社員) -
(綜合技術 三宅龍雄)
初心者や一般の人を対象とした書籍として「公害防止の技術と法規 騒音編」(監修:通産省環境立地局)があります。これは、騒音の基本的特性から測定技術、騒音防止技術まで簡潔にまとめられており、公害防止管理者資格認定講習用テキストとしても用いられています。また、交通騒音や工事騒音、工場騒音などの騒音源特性などを知る上では「地域の音環境計画」(日本騒音制御工学会編、1997)、室内外の音の伝搬などを知る上では「建築・環境音響学」(前川純一著、1990)が参考になります。
当学会の頒布資料には「騒音・振動技術の基礎と測定」(平成13年度講習会テキスト)があります。当学会のホームページ(https://www.ince-j.or.jp)にアクセスされると騒音・振動についての情報が入手できます。
- 騒音に規制事務に携わって1年に満たないが、法律や条例に抵触しない工場・事業場、建設作業、近隣騒音等についての苦情処理について苦慮しています。対処方法のコツのようなものがあればお教え下さい。
(自治体職員) -
(大阪府公害監視センター 厚井弘志)
騒音の苦情処理は、古くて新しい問題であり、ご苦労の程良く分かります。一 昔まえの騒音公害であれば、誰が聞いてもこれは大変だ、というものでしたが、近年 は騒音レベルが低くなり、技術的にそれ以上にレベルを下げることがほとんど不可能 に近い場合が多いのが現状です。特に大阪府の場合などは、規模に関わりなく、全て の工場・事業場を規制対象にしており、条例上は、例えば製品の搬出・搬入にともな うトラックの出入りに伴う音(事実状防止の方法がない)までが含まれますから、規 制に当たられる市町村の担当者のご苦労には大変なものがあります。
また、騒音公害のいくつかには、騒音自体が問題ではなく、相手方が我が家にな いピアノを持っていることがしゃくに障る、とか、先代からの土地の境界問題が根底 にあるとか、騒音そのものが問題でない場合も多いのです。
さて、こうした問題への対応ですが、まず誠実に対応し言い分を良く聞いてあげ る(私の場合は3度までは同じ事の繰言であっても聞く)のが、原則です。苦情者の 多くは孤独で、自分の悩みを理解してくれる人を持たない。したがって、まじめに聞 いてあげるだけで解決する場合もあります。もちろん行政の説明に納得せず、しつこ く何度も何度も苦情を申し立てる方も多くおられます。実は、私自身騒音公害の加害 者(マンションでの子供の飛び跳ねる音)になったり、被害者(隣家のボイラー音) になった経験がありますが、自分で出来る限りの処置をし行政に持ちこんだりはしま せんでした。
ですから、私が相手の立場ならこうする、あるいは、このようにして解決された 事例がある、と言えば、近隣騒音の場合は大抵以後苦情は来なくなります。
それでも納得が得られない場合、公害紛争処理法に基づく調停を進めます。大阪府 では年間7,8件の調停事案がありますが、6,7割は騒音に関するものです。それ でもだめなら残された手段は民事訴訟を勧めるしかないでしょう。
- 一般的傾向として、気温、湿度、天候などは騒音レベルにどういう影響があるのか教えて下さい。
(匿名) -
(名城大理工学部 吉久光一)
冬季の早朝に遠くの鉄道の音が聞こえてきたり、屋外スピーカの放送音が風向きによって聞き難くなったりすることがあります。また、上空を通過する航空機の音は、晴れた日よりも曇りの日に大きく聞こえるといわれることもあります。
このような現象は、主として風と温度分布の影響、および空気の音響吸収の影響によって説明されています。
まず、風と温度分布の影響は、現実の地表面近傍の風速と気温が地上からの高さに依存するため、音速が地上高さによって異なってくることに起因しています。この音速の高さ方向の変化により、地表面に沿って伝搬する音は連続的な屈折作用を受けるとことになります。一般に、風速は地面近くで急速に減少しますから、順風条件(音が風下側に伝搬する場合)では上空ほど音速が高くなり、音線は下向きに曲げられ音が伝搬し易くなると考えられます。一方、逆風条件では反対に音線は上向きに曲げられ音が伝搬し難くなります。また、温度分布の影響については、昼間は地表面近傍の気温が上昇し音速が高くなるため、音線は上向きに曲げられるのに対して、夜間は放射冷却現象により地表面近くの気温が低下し、音線は下向きに曲げられると考えられます。このように、これらの現象は風速そのものや夏季と冬季のような気温の絶対的な違いではなく、地表面近傍の風速分布と温度分布によるものです。したがって、地面温度が上昇する晴天の昼間などは、夜間や雨天の日よりも騒音レベルは低くなると考えられます。空気吸収による減衰は、周波数が高いほど大きく、気温と湿度に依存します。気温が20℃付近の場合には、相対湿度が極端に低い場合(20%以下)を除いて、湿度の上昇とともに、大部分の周波数で減衰が小さくなります。この点に着目すると湿度が高い場合、すなわち、雨天や曇天の日は音が伝搬し易く、騒音レベルが高くなるといえます。ただし、この湿度依存性は気温によって大きく異なるため、一般的には、空気の音響吸収は気温や湿度とともに単調に増加あるいは減少するものではなく、複雑に変化すると理解しておくべきでしょう。
なお、以上述べた気象の影響については、本工学会編「地域の音環境計画」(技法堂)に、実測データと併せて詳述されていますので、それを参考にしてください。