日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

Vol.44, 2020-4

遮音材料と吸音材料の選定にあたっては、材料メーカのカタログ値を参考にしています。この中では多くが1/3オクターブバンドあるいはオクターブバンド中心周波数で125 Hz~4 kHzの性能(透過損失、吸音率)が記載されています。特に低周波音の対策では31.5~100 Hzのデータが必要になることが多く、この領域の性能をどのように考えれば良いかをご教示ください。また、記載されていない高周波域の考え方についてもご教示いただけると幸いです。(Vol.44No.4)

((一財)小林理学研究所 吉村純一)

まず、音響透過損失、残響室法吸音率ともに、実験室において直接オクターブバンドの信号を用いて測定されることはありません。測定結果が音源信号の帯域内でのスペクトルに依存して変化してしまうからです。透過損失のカタログに、もしオクターブバンドの値が示されているとすると、3つの1/3オクターブバンドの入射パワーが等しいとして、透過パワーをエネルギー平均した値です(例えば、JIS A 1416 式11)。また、残響室法吸音率は単純に平均することは出来ないので3つのバンドの真ん中の周波数の値で示すか、割り切って算術平均値が示されることが多いので急峻な周波数特性となる材料については注意が必要です。

次に125 Hz~4 kHzの測定周波数範囲の件ですが、透過損失の測定方法が検討された当時、軽量単板の測定値とランダム入射質量則(拡散音場を仮定して無限に大きい材料の質量が音に抵抗)による推定値との対応が比較的良い周波数範囲として定められました。これより低い周波数域では波長が数メートルを超え、試験体の寸法や残響室の大きさに比べ長くなり、材料の振動条件や残響室の拡散音場を実現しにくくなります。また、高い周波数域では当時の受音装置の精度が十分でなかったこともありますが、コインシデンス効果や隙間からの漏洩音等の影響を受けやすく、質量則だけでは説明しにくい周波数範囲として測定対象外とされています。

その後、測定技術の進歩や材料の挙動の解析により、様々な材料、構造についての測定結果の挙動が説明されていますが、いずれも質量則からの違いとして考えることが解りやすいかもしれません。

カタログ値の周波数特性をまず、グラフにプロットしてみてください。そこへ質量則の曲線(音場入射の質量則など、直線近似した線を低周波数域へ延長するには注意が必要)を書き入れると様々なことが解ります。

均質単板であっても、残響室の開口(通常10 m2程度)に設置された有限の大きさで測定された値は、質量則の曲線より高くプロットされているはずです。板ガラスや扉など、小さい面積で測定される場合さらに高くなります。二層壁やコンクリートなどの単板にボードなどを付加施工した構造では、低音域共鳴透過による落ち込みと二重壁の効果が得られる周波数範囲が観えてきます。この効果はコインシデンス限界周波数付近で一旦失われ大きく落ち込みを生じます。

コインシデンス効果はある方向からの音の入射によって板に生じる曲げ振動の波長と音の波長が一致すると全透過が生じる現象で、その周波数は板の厚さ、密度、ヤング率などにより、落ち込みの程度は材料の内部損失や周辺支持条件などによって異なります。板ガラスやボードなどでは中高音域に生じますが、厚く重いコンクリート壁などでは低音域に至る場合があります。なお、片側が自由音場の場合、入射角度が異なると落ち込む周波数が変化して不思議音として表現されることもあります。

音の入射によって板に生じる縦波の半波長と板の厚さが一致した場合、高音域共鳴透過現象が生じ、やはり透過損失が低下します。一般的な厚さの材料では高音域に生じる現象ですが、極端に厚いコンクリート壁などでは低音域に生じる場合も考えられます。

特に低い周波数域を検討する場合、実験室での測定結果に質量則による曲線を低音域に延長しても、剛性則(材料の質量ではなく板の剛性と周辺支持条件に依存する)による周波数領域との境界及び材料だけでなく構造的な剛性を類推する必要があり、対策を考える実際の現場の条件を見極めて、あらかじめ効果を期待するのは難しいと考えられます。

途中から残響室法吸音率についての考え方は抜けましたが、試験体の寸法や残響室の大きさに比べて扱う周波数の波長が長くなり精度が低下するのは透過損失と同様で、吸音性能に対策効果を期待するのは難しいと考えられます。

紙面の関係で、太字で示した専門用語の詳しい説明は避けましたが、当学会編集「騒音用語事典」などを参照いただけると幸いです。

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