日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

Vol.42, 2018-3

昨今,保育施設における騒音問題が話題となっていますが,具体的にどのような問題がありますか? またこれらの問題に対し,どのような対策の方法がありますか。(Vol.42No.3)
Vol.42 No.3

(岩手大学 船場ひさお)

保育施設から出される音の大きさは以前とほとんど変わっていませんが,待機児童解消に向けて保
育園新設が急増しており,保育施設からの音を理由に保育園の建設に反対する事例が増えて来たことなどから話題になるケースも多いと思われます。そこで,少し問題を整理しながら質問に答えていきたいと思います。
◇保育施設から出される音について
保育施設から出される音には,園庭で子どもが活動する中で出る音,放送設備等の音,園舎から漏れ
出る音,施設の設備機器から出る音などがあります。このうち,設備機器からの音については一般的
な事業所からの発生音と同様に対策できるためここでは省いて考えます。
園庭で子どもが活動する中で出る音について,実測された例は少ないのですが,筆者らが近年実施し
た実態調査1)において,園庭で外遊びをする際の子どもの声の騒音レベルは70∼80 dB を示しました。
特にプール遊びをする際には大きな歓声があがるためレベルが上昇する傾向が見られました。
同様に室内活動時の騒音レベルは「歌やリズム運動」を行う際に80∼90 dB を示しました。室外にお
いては建物による遮音を考慮するとこの値から20∼30 dB 低減されると考えられるため,50∼70dB 程度
になります。但し窓を開放している場合は,これよりも高いレベルを示すこともあるでしょう。
放送設備の音については,不必要に大きな音量を出さないことや,スピーカの設置位置・方向を近隣
の住宅に向けない配慮をするなどで対策することができます。
◇外遊び時に子どもが外部騒音から影響を受けていることも多い
WHO 環境騒音のガイドラインでは,子どものための施設の園庭における外部騒音の許容値は55 dB以下とされています。しかし近年新設される首都圏の保育園は幹線道路沿いや鉄道高架下に位置することも多く,筆者らが調査した保育施設では近接する道路の車両交通騒音や直上を走る鉄道騒音のために65∼80 dB に達しており,許容値を大きく上回っていました。子どもの声が外部に与える影響ばかりに目が行きがちですが,実際には外部騒音から子どもが受ける影響も大きいのです。
◇保育施設内の音環境を整えることが,保育施設から発生する音の対策につながる可能性は高い
見逃されがちなのが,保育施設の室内の音の響きです。残念ながら日本の保育施設には音に関するガイドラインがありませんが,例えばドイツでは保育施設の室内の騒音レベルだけでなく,残響時間の値も決められています。国内の保育施設では,仕上げ材料に吸音材が使われていない園が多く,特に天井が高いケースやワンルーム型で間仕切りがなく床面積が広いケースで,響きの長さによって室内の喧騒感が増している場合が見られます。響きやすい空間では子どもの声が大きくなりがちであり,そのために保育士の声も大きくなる傾向があります。こうしてさらに喧騒感が高まる悪循環に陥っているものと考えられます。保育室の響きの状態と子どもの発声や発話行動との関係性については今後さらに検討が必要ですが,保育施設内に吸音材を設置することで,計算値以上に室内の騒音レベルが下がる事例は増えています。
◇子どもはいつも大声を出しているわけではない
子どもは賑やかなものと,つい思ってしまいますが,どんな時にも大きな声を出しているわけではありません。保育士に意思を伝えたいのに自分の方を向いてもらえない時などに大きな声を出すのです。そして室内で大きな声を出す癖がついてしまうと,室外に出ても大きな声を出してしまうのでしょう。
◇ハードな対策ありきではない。
例えば防音壁を建てるのは最後の手段 このように考えてくると保育施設における騒音問題についてまずやるべきなのは,当事者同士がいろいろな知恵を絞って落とし所を考えることであり,子どものために良い音環境を作るためにはどうしたら良いかを考えることだと言えます。施設を新設する場合には,まず周辺の道路や住宅地と園庭・園舎の位置関係を音の面から考えてレイアウトすることは非常に重要です。次に園庭で遊ぶ時間を制限したり,歌やリズム運動といった大きな音の出やすい活動の際には窓を閉めるなどの工夫もできるでしょう。そうは言ってもうるさいものはうるさい。何かハード的な対策をしなければ話が前に進まない場合には,防音壁を建てるなども必要かもしれません。でもそれは最後の手段だと思います。

参考文献
1 )船場ひさお: 小特集─子どものための音環境─,保育施設における音環境の現状─首都圏に新設された保
育施設の実態調査から─,日本音響学会誌,vol. 72,no. 3,pp. 152-159(2016).

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