Vol.42, 2018-4
- 航空機騒音のうち,エンジンテストなど地上から発生する騒音の低減方法,測定評価上の課題について教えてください。(Vol.42No.4)
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Vol.42 No.4
(アイ・エヌ・シー・エンジニアリング 井上保雄)
航空機騒音に係る環境基準の改正(平成25年4月1日 施行)により,航空機騒音の評価量がWECPNLからエネルギー積分を行うLdenに変わりました。また,これまで対象にしていた飛行騒音に地上音も含めた航空機関連騒音について総合的に評価することになりました。飛行騒音については空港毎に離発着時間の制限や騒音軽減の運行方式(飛行ルートや高度など)などについて検討,実施され,一定の効果を上げてきました。また,旅客機はその型式証明においてICAO1)の騒音基準に基づく騒音レベル以下であることが求められ,2017年以降(小型機は2020年)の新しい機体に要求される新基準Chapter14(3点の合計値がChapter3よりも,それぞれ10dB減,17dB減)に対応し着実に低騒音化が進んでいます。
一方,地上騒音についても,CO2削減などとも相まって取組が進められています。
主な航空機関連の地上騒音は下記の通りです。
・着陸直後のリバース騒音(旧環境基準でも考慮)
・地上走行(タクシーイング)騒音
・補助動力装置(APU2))の稼働騒音
・エンジン試運転時(エンジンテスト)の騒音
・その他の騒音(車輌等の騒音は含みません)
以下に主な地上騒音である航空機あるいはエンジン試運転時の騒音低減施設について説明します。
1. 施設に要求される性能
性質上,音響性能は基より,施設内でエンジンが正常に運転できる空力性能など細かい設計上の配慮が必要になります。
1.1 音響性能
・試運転時に発生する騒音が所定の位置で所定の騒音レベルを満たす。
1.2 空力性能
・エンジン前方で所定の気流条件を満たす。
1.3 その他の配慮事項
・機体あるいはエンジンに音響疲労等の影響を及ぼ
さない。
・空力的Recirculation(エンジン排気ガスを再び
吸込むこと)がない。
・グランドボルテックス等の渦がエンジンに吸い込
まれない。
・排気ガス温度が構成材料の許容温度以下になる。
・FOD(Foreign Object Damage)を発生しない。
・室内負圧が所定圧力に納まる。
・構造的に十分な強度を有する等。
2. 騒音低減施設の種類
2.1 航空機地上試運転騒音低減施設
航空機の点検,整備の一環としてジェットエンジンを機体に装着した状態 で試運転する時の騒音低減施設です。これは下記の種類に大別できます。
(1) フェンス(防音壁)型
機体の廻りを防音壁で囲うもの
(2)ダクト&フェンス型
ジェットエンジンの排気音低減のため,排気口に吸音ダクトを設置,エンジンとダクト間から漏れる音を低減するため防音壁を併用するもの
(3)セミハンガ型
機体の後方(ジェットエンジン排気側)のみを防音建屋に入れるもの
(4)ハンガ(ハッシュハウス)型
機体全体を防音建屋に入れるもの
このような施設が無い空港では,エプロン等で試運転が行われることもあります。
2.2 ジェットエンジン運転用騒音低減施設
オーバーホールの後,エンジン単体で性能確認運転する時の騒音低減施設です。通常,エンジンテストセルともいわれます。
なお,戦闘機用エンジンの場合,高温の排気ジェットを冷却するため,空冷型と水冷型に分けられます。
地上音の測定・評価上の課題として,タクシーイングを除き准定常騒音とみなされ,時間区分をまたがる,単発騒音等との重畳など評価量に及ぼす影響の処理に手間が掛かる,場合によっては音源の特定が難しい点などが挙げられます。
注釈1) ICAO : 国際民間航空機関
注釈2) APU : 小型ガスタービン補助動力装置
【参考文献】
1) 環境省 航空機騒音測定・評価マニュアル 平成24年11月
2) 航空機・ジェットエンジン試運転用騒音低減施設 IHI技報
Vol.50 No.4 (2010)