日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

Vol.40, 2016-1

MRI 騒音対策にはどのようなものがありますか。(Vol.40 No.1)
Vol.40 No.1

(関西大学 梶川嘉延)

MRIは任意の方向の人体の断面画像を撮像可能なため, 医療分野においては欠くことのできない医療機器の一つとなっている。 しかしながら,MRIは撮像のために静磁場中に配置された傾斜磁場コイルに電流の緩急を与えることにより, それに伴うローレンツ力により傾斜磁場コイルが振動し, 高い音圧レベルを有する騒音が発生する。 その音圧レベルは最大で100dBを超えることもあるため, その深刻な騒音暴露に対する対策の必要性も指摘されている。そのため,現状ではMRI検査の際には,耳栓やイヤープロテクタ, 撮像部位によってはヘッドホンの装着が必須となる。

MRI騒音に対する対策は, 受動騒音制御(パッシブノイズコントール) による対策, 撮像シーケンスのコントールによる対策,能動騒音制御(アクティブノイズコントロール), に大きく分類される。パッシブノイズコントロールによる対策の代表例は,耳栓やイヤープロテクタの利用である。この場合, 高い周波数成分の騒音低減には効果的であるが, 原理上低い周波数成分の騒音を低減するのは困難である。 また, 耳栓やイヤープロテクタの装着は耳への圧迫感を与えるとともに,必要な音まで遮ってしまうという問題がある。特に肉声による対話を著しく妨げることは医療現場においては大きな問題点となる。さらに,心理的不安を少なからず与えることも事実である。

他にも, 傾斜磁場コイルを真空中に設置するとともに, 傾斜磁場の振動を免震する構造を取り入れたMRI装置も開発されている。この対策により騒音低減を実現できるが, 設置済みのMRI装置は世界中には多数あるため, コストを考えるとすべてをその装置に置き換えることは現実的ではない。

次に, 撮像シーケンスを制御することで騒音が発生しにくいもしくは騒音が大きくならないようにする試みもなされており, 最大で20dB程度の音圧レベルの低減を達成したという報告もある。 しかしながら, この方法の大きな欠点は撮像方向や解像度などに大きな制限を与えるということである。

最後に,MRI騒音の低減のためにアクティブノイズコントロール(ANC)を利用することも検討されている。 ANCは重ね合わせの原理に基づいた騒音制御法である。 すなわち, 制御対象となる騒音に対して同振幅で逆位相の擬似騒音をスピーカから放射し,騒音と干渉させることでその騒音を低減する。ANCによるMRI騒音の低減の試みは多くなされており, 30dB以上の騒音低減効果が実現されたという報告もあるが, シミュレーションや実験室による模擬実験による成果にのみ留まっているケースが多い。また, ヘッドホンにANCを導入した事例が多いが, ヘッドホンの利用は肉声による対話を阻害するとともに,耳への圧迫感などのため長時間の利用は困難である。 しかしながら, ANCは低い周波数成分の低減に効果的であることから, よりMRI 装置に適したANCシステムの検討が近年なされている。その一例としては, スピーカとマイクロホンを耳介近傍に設置したヘッドマウント型ANCシステムがあり, 500∼2,500Hzの帯域における周期性成分を約30dB低減することに成功している。また, 耳を塞がない構成のため肉声による対話も可能であり, 耳への圧迫感も軽減されている。 別のアプローチとしては,枕にANCシステムを導入することで, より自然な形で騒音低減を享受できるシステムについても近年検討されている。

以上のように,MRI騒音のための対策にはさまざまなものがあるが, まだまだ解決すべき課題が残されているものの, アクティブノイズコントロールによる対策が今後は主流になっていくのではないかと考えられる。

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