日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

Vol.25, 2001-7

低周波音について具体的な対応例を教えて下さい。
                                   (自治体職員)

(大阪府公害監視センター 厚井 弘志)

低周波音については、古くは、昭和30年代に、キューポラの鳴動音が苦情の対象になることがありました。この場合は燃焼方式を変える等の対策を取っていたようです。全国的には、和歌山県のある工場の溶鉱炉の低周波音が新聞でとりあげられたことがありましたが、対策にはかなり時間がかかったようです。

私自身が関わった例として、H市のK工場の例があります。K工場は周囲数kmに及ぶ大工場であり、その周辺の民家数百戸から、窓ガラスや建具が鳴動するという苦情が発生しました。現場に出向くと民家窓ガラスはもとより、近くの倉庫の壁が激しくゆれているが、可聴域の音は全く聞こえない、典型的な低周波音の事例でした。

波形を良く見るために、精密騒音計の端子にハイカットフィルタを取り付け、オッシロスコープで波形を確認すると、16Hzのきれいな正弦波形でした。発生源としては、コンプレッサ、ボイラ、オッシレートコンベア、ダクトの共鳴等対象となる機械が多い。

当初、会社側の協力を得て、ラインごとに止めていけば容易に発生源は探査できると考えていたが、なかなか分からない。最終的には、夜間、騒音計とオッシロスコープを車に乗せて16Hzの低周波音のコンターを描き、やっと一つの工場建物を特定できました。その建物のほぼ中央にはオッシレートコンベアが設置されており、コンベアの基礎と建物の基礎が固着しているため、コンベアの振動がそのまま建物に伝わり、建物を大きく揺らし、あたかも、建物本体が巨大なスピーカのような役割を果たしていたわけです。対策としては、機械の基礎と建物の基礎を切り離せばよいのですが、経費の点から機械の使用を停止したように聞いています。

超低周波音は20Hz以下の音をいいますが、低周波音として最も多い苦情は、先に述べたような発生源から出る100Hz以下の低いうなり音です。可聴域の騒音対策を行ったあとでも苦情を申し立てる人がいます。このような場合基準が無いことを説明して納得してもらうか、工場側に誠意があり、対策可能な場合
(例えば、大型コンプレッサに干渉型のサイレンサをつける、2台の機械が共鳴を起しているなら回転数をかえる、等)には工場側の相談にのることもあります。

多少変わった事例をご紹介しておきましょう。
ある河川の上流部でダムを作ったのですが、河川流量が増えた時、円形の越流堰から越流する河川水の薄膜が周期的に波打ち、低周波音が発生した事例があります。苦情者はダム建設によって立ち退いた数十軒の方々でしたが、建具ががたついたり、仏壇の位牌が反対側を向いたり、大変な騒ぎになりました。対策は簡単で、越流堰の中ほどにコンクリートで波切りをつくり、水膜を切ることにより発生を防止することができました。

ある町工場(製紡業)の場合、苦情を訴えているのは工場の経営者のお母さん(お婆さん)で、苦情の対象は約30m程離れたパン屋のクーリングタワーの低周波音です。工場の経営者、市の担当者、私にはその音は聞こえません。測定をしても問題になるような音圧レベルは観測されませんでした。

そのお婆さんの話を聞きながら、お婆さんの日常の動線にそっていっしょに動いてみました。お婆さんの話では動力ミシンを使用した後に、例の音が聞こえると言うことです。ハハア耳鳴りだな、と直感的に感じながらお婆さんから色々話しを聞くと、最近仕事が忙しくなり、また次男が結婚してだれもかまってくれなくなった、さびしい、云々。早速ご家族を呼び、パン屋が原因でなく、耳鳴りであること、家族でお婆さんにもっと気遣ってあげようということで一件落着。

低周波音は人によって感じ方が大きく異なります。また、苦情者の中には孤独で家の中に引きこもっているケースも多いようです。基準値を遵守している工場や騒音対策を行った高速道路で、かえって低周波音が気になるようになったとか、執拗に苦情を申し立てる人がいますが、このような場合、苦情者と良く話し合いを行い、真の原因を突き止めることが大切です。話し合いで解決が付かねば、公害調停や訴訟に持ち込むしかないでしょう。

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