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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

高架道路裏面に設置する吸音板の吸音性能評価(Vol.45 No.3)
高架道路裏面に設置する吸音板の吸音性能評価

高架道路裏面に設置する吸音板の吸音性能評価

 複層構造の高速道路が郊外に延伸しはじめた当時,沿道住民から救急車のサイレンが遠くから聞こえてうるさいとの苦情が頻繁にあったという。その原因は,救急車が下層の道路を通過する際,サイレン音が通過道路面と高架道路の裏面で多重反射をして伝搬し遠くまで聞こえるためであった。
 1993 年(平成 5 年)に,埼玉県戸田市に首都高速5 号線と外環道が接続する地下 1 層,地上 4 層の 5層構造の美女木ジャンクションの供用が開始された。その際,景観に考慮した高架裏面反射音を低減する吸音機構が要求された。この件で,斜入射吸音率測定に携わることになった。当時の都市伝説として,道路構造に吸音板を配した現場で,施工者は「今回設置した吸音板の吸音率は 1.0 を超えていますので,吸音板からの反射音は全くありません」と施主側の道路管理者に胸を張って説明したが「吸音板からも音が聞こえるではないか,どうなっているのだ」と詰問され,施工者はただただうろたえていたという話がある。一般に吸音率というと残響室法吸音率を指し,測定時に生じる面積効果のために吸音率が 1.0 を超える周波数帯域がある。その都市伝説を信じるか信じないかはあなた次第ですが,道路構造に設置する吸音板については,予測計算に用いることが可能な 1 回反射で吸音材の評価をする斜入射吸音率測定が必要であった。斜入射吸音率測定については多くの手法が発表されていたが,既存の測定法は表面が平坦で均質な材料および試料に近接してマイクロホンを配する条件でのみ可能であった。しかし,美女木ジャンクションに設置予定の吸音機構は,不均質で,表面が凹凸であった。そこで当時筑波大学の青島先生が「青島パルス(TSP)1)」というスピーカーからスイープ波形を発生し,後処理により風船の破裂音に近いパルス波形が得られる手法を発表していた。この測定法を用いて,必要とする測定試料からの反射音のみを抽出し,斜入射吸音率測定を行うこととした。初期の段階は,模型実験室で苦労しながら測定を行っていたが,後に斜入射吸音率測定を専用に行う 7 m×8 m,高さ 6 m の測定室を建設した。測定では,試料を配置する床面とスピーカーおよびマイクロホンとの距離は 3 m,測定角度は,0 度,15 度,30 度,45 度とした。試料面積は,グラスウール単体であれば 10 m2,吸音性能が低い試料は 20 m2あれば無限に配置した場合の測定結果とほぼ一致したので,道路に用いられる吸音板の大きさを考慮して 4 m×5 m とした。
 測定システムで苦労したのがスピーカーシステムの選定であった。スピーカーシステムの必須条件としては,小型・軽量・密閉・ワンウェイ,欲を言えば測定周波数範囲がフラット特性であった。2 ウェイのスピーカーでは帯域カットの回路があり,2 つのパルスが得られてしまって却下。また,市販のワンウェイのスピーカーシステムは,スピーカーボックス内に細工がしてある,バスレフ型など納得できるものはなかった。そんな折,オーディオ雑誌で口径 5 cm のフルレンジスピーカーユニットを見つけた。スピーカーボックスは密閉式・小容量でよく,広帯域でフラットに近い音が出るとのことであった。販売元曰く,このスピーカーは海外製品であり,小さな製造会社で年寄りが手作業で作っており,いつ生産終了になるかわからないと脅かされ,国産のスピーカーに比べて価格が 1 桁違ったが,予備も一緒に購入した記憶がある。このスピーカーシステム,誇大広告でなく,小容量・軽量にもかかわらず広帯域でフラットに近い音を今でも出している。
 道路構造に設置する吸音板の評価は,周波数毎ではなく,各角度の吸音率の算術平均値に自動車走行騒音の A 特性相対バンドパワーレベルを加重して得た単一の値で評価する平均斜入射吸音率を用いた。
 この斜入射吸音率測定法が,当時の建設省の平成7 年度建設技術評価制度課題「騒音低減効果の大きい吸音板の開発」の吸音性能試験方法に採用された。ここでは,高架道路の裏面など道路構造の 6 箇所各々で反射による沿道の騒音レベルの上昇を 1 dB以下に抑制できる平均斜入射吸音率を評価基準とした。なお,裏面吸音板については,これまで俎上にのらなかった高架構造物音の低減のために遮音性能にも配慮することが望ましいとの留意事項が追記された。評価制度前は,決められた図面通りに裏面吸音板を製作するだけであったが,この制度をきっかけに各メーカーは独自の技術力で製作が可能になり,吸音性能の向上に大いに役に立った。この制度は単年で終了したが,平均斜入射吸音率の評価基準については現在も用いられている。吸音性能の向上には多くの労力が伴うが,画期的な吸音機構が生まれることを願うばかりです。

参考文献
1 )青島伸治:パーソナルコンピュータを利用した信号圧縮法によるパイプ内音場の測定,
日本音響学会誌,vol. 40,no. 3,pp. 146-151(1984).

(木村和則)

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