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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

騒音は重要な問題?(Vol.45 No.2)
騒音は重要な問題?

騒音は重要な問題?

騒音は重要な問題?

 2021 年現在,「コロナ」と騒音,どちらが重要な問題かと聞かれたら,100 人中 99 人以上は「コロナ」と答えるのではないでしょうか?
 簡単に比べられる様なものではありませんし,だからどちらが重要,というものでもないでしょう。それでも,この 1 年のコロナ騒ぎは,様々な問題についての私たちの価値観を考え直す決定的な契機になったと思います。ここでは,簡単ではありますが,重要な問題とはなにか,そして騒音問題は重要なのか,という点について,私の思うところを思うがままに書きつけていきたいと思います。

なにが「重要な問題」なのか?
 コロナウイルスは,なぜ,人類にとっての重要な問題とみなされているのでしょうか。その理由を考えることが,重要な問題とはなにか?という問いへの有効なアプローチに思えます。そして,私はそれを,「命と豊かな生活に深刻なダメージを与えるから」,と結論づけたいと思います。
 命(あるいは健康)への影響については,肺炎やそれに付随する重篤な症例のエピソード,患者数や死者数などの統計から明らかです。また,パンデミックは,間接的ながらも,私たちの生活様式を大きく変え,生活の維持が難しくなっている人やそれまでの生き方を変えざるを得なくなっている人を多く生み出しました。命や生活への影響が問題を問題足らしめている必要条件であることには,あまり異論はないのではないかと思います。

多数決の不正義
 影響の有無が必要条件としたら,影響が「深刻」であることが,十分条件ではないでしょうか。影響の深刻度合いについては,リスクの概念にしたがえば,「多くの人に,重篤な影響が生じること」,で測れるのではないかと考えます。国内感染者数が1000 万人いても軽症で収まるケースが多いインフルエンザや致死率が非常に高くても感染者が皆無である狂犬病と比較し,コロナウイルス性肺炎は高リスクに思え,深刻な影響である,と言えそうです。
 ただし,「多い」,「重篤」,等の言葉は,相対的に使われるものであり,注意が必要と考えています。特に前者は,いくらでも少なく見せることができます。なぜならば,影響はしばしば「遍在」ではなく「偏在」しているからです。「偏在」,つまり偏った地域や一部の人でのみ生じている問題は,全体を分母とすればわずかなリスクとみなせます。統計学の格言「片足をオーブン,もう片足を氷の中に入れたとき,平均するときわめて心地良い温度である」に皮肉られているように,科学的な方法は,偏在する問題を切り捨てることができるのです。それが一部の人にとって深刻な影響をもたらすにもかかわらず。同様に,多数決は,「最大多数の最大幸福」が正義である,という前提のもとで行われますが,偏在する問題に対するアプローチとして不適切であることは論理的に明らかです。

騒音と,もっと重要な問題
 騒音が偏在する問題であることは異論のないことだと思います。地域や各個人の属性・生活様式に応じて影響が偏っていることは普通であり,問題の重要性は全体を平均しても見えません。たとえば,私の研究室では,日本全国で騒音を要因とした心筋梗塞による死亡は年間約 2,000 人と試算しています。しかし,実際には曝露を受けている人口は全人口の一部です。仮に,全人口の 10% が曝露を受けると考えれば,この群の 10 万人死亡数は約 10 人であり,北海道でのコロナウイルスによる死亡率に相当します。これは,定量的な推定としてはきわめて乱暴ではありますが,一部の人に偏って無視できない確率で影響が生じることを強く示唆しています。私には,このようなリスクを受忍せよ,というのが正義にもとるとは思えず,騒音は,未だに重要な問題
のひとつであると考えています。
 一方,地球温暖化,食糧危機,異常気象,等の環境問題が,いずれも騒音よりずっと重要な問題であることは論を俟たないと思います。しかし,現時点で,影響を受ける地域や住民はきわめて偏っており,破滅的な結末を迎える可能性があるにも関わらず,これらの問題は過小評価されている様に思えます。コロナウイルスによる問題も,徐々に「偏在」化が進行している様です(たとえば先進国で先行するワクチン接種)。問題の正しい認識と対処が私たちに必要不可欠ではないかと考えています。
 最後に,問題の偏在や格差の根本的な原因が資本主義的な「豊かさ」にあると示す文献は古典から近著まで枚挙に暇がありません。私たちは工学から哲学や経済学へと視座を変えていく必要があるのではないでしょうか。

(北海道大学 田鎖順太)

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