日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

耳を傾けて (Vol.45 No.1)
耳を傾けて

耳を傾けて

耳を傾けて

騒音関係の仕事について約 50 年,長年やっていると,「そんなところにも騒音が関係していたのか」という話をしてみたい。

迎賓館赤坂離宮と防音装置
 迎賓館は明治 42 年に東宮御所として建設され戦後一時国会図書館などにも使用されたが昭和 49 年改装し,平成 21 年にさらに大規模改修工事を行い,その後一般公開されている。もう見学された方もいると思う。
 その昭和 49 年の改装の時の話である。迎賓館には羽衣の間と花鳥の間という公式晩さん会や国賓の歓迎パーティーが行える大きな部屋がある。部屋の天井には天女が舞っている大絵画が描かれている。今までの室内の空調では,特に冷房の時室内の天井付近の温度差により天井部分が結露し,カビの原因となり絵全体がくすんでいた。改装によりこれを改善しようということになった。改造方法は天井絵画の表と裏で同じ温度にすれば良い。結局室内の空気を送風機で吸引し,天井裏に出すればよいことになる。特別な入口から天井裏に入ってみた。天井裏と言っても,大変広く通路があり,手すりがあり,裸電球があり,もう一部屋できるような空間があった。空気の流れはよいが送風機を使うと騒音が発生する。この音が絵画の書かれた天井の板を騒音がどの程度透過するか,スピーカ試験で確認した。絵画が描かれた天井板の遮音量が不足することが分かった。そこで送風機と消音器が一体となった防音装置を天井裏に設置することになった。取り付け部は木材となるため振動が問題にならないか実験してみた。振動伝搬特性は画鋲に振動ピックアップを接着して取り付け,天井画に傷をつけないように画鋲を刺して測定した。このように送風機付きエルボ形消音装置は天井裏で活躍している。
 くすんでいた天井画は芸大の学生が補修してきれいになっていた。羽衣の間と花鳥の間は見学コースになっているので騒音が聞こえるか確認していただくと嬉しい。

グリコ・森永事件と特定騒音
 昭和 59 年 3 月大阪で発生した事件でグリコの社長が誘拐され身代金を要求され,食品会社が脅迫されたが犯人が捕まらず時効になった事件である。
 ある日二人の刑事が訪れてきた。テレビのように警察手帳でも見せてくれるかと思ったが,実際には名刺交換である。関西で発生した事件であるが東京の警視庁の刑事で名前のところが手書きの名刺であった。犯人から送られてきたテープを聞いてほしいということであった。グリコの社長がどこかに誘拐され脅迫されている,その背景に特定騒音(特定騒音:総合騒音の中で,音響的に明確に識別できる騒音)が録音されていた。トントントンというかコンコンコンという音があり,最後にバタンという大きな音があった。キツツキが木をトントンたたいているのか,板前さんがまな板をたたいているような音でもあった。キツツキでも板前さんでも疲れてきてピッチがずれるはずであるがずれていない。周波数分析など行い,やはり機械特有の音ではないかと思った。小型のコンプレッサーで鉄工所の空気源に使われている機械ではなかろうかとコメントした。残念ながら犯人は捕まらず,事件は時効になった。

地上 200 m の騒音測定点
 JIS では「一般的な騒音測定は地上 1.2∼1.5 m で測定することになっているが,それ以外の測定点の高さは目的に応じた高さとする」となっている。一方送風機の騒音は吸い込み口 1 m,あるいは吐き出し口 1 m が測定点である。それに煙突が接続されているので,煙突の開口部即ち地上 200 m 地点で騒音を測定することになってしまった。
 製鉄所などでは工場の排気,ガスの放出などが大気汚染防止の必要性から高い煙突が設置されている。3 本集合型などがあるが大型の送風機は集合型煙突に接続されその高さは 200 m ぐらいの高さになる。大型の送風機を運転する場合は消音器の必要減音量とセットで煙突丁部出口斜め 45 度 1 m 地点で騒音レベルを保証しなければならない。地上の騒音は自分たちで測定できるが 200 m の煙突頂部は登らなければ測定できない。煙突には梯子がついているがとても登れない。従って高所作業の資格を持った「とび職」を頼まざるを得ない。携帯電話もない時代だったのでトランシーバー(無線機)で連絡しながらケーブルを手繰り寄せマイクロフォンを煙突頂部へセットし,騒音計は地上で測定値を確認した。測定値は低くても,測定費は最も高い所とな
る。

(名誉会員,認定技士 工藤信之)

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