日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

子どもにとっての音環境とは?(Vol.44 No.2)
子どもにとっての音環境とは?

子どもにとっての音環境とは?

身近な体験から

研究者、そして子育て当事者として考える、子どもにとっての音環境。生活を通して感じることは、まずうるさい環境は、子どもの育ちにとってもやはり良くない。例えばにぎやかな状況だと子どもは自分のことしか見えなくなりがちで、周りの情報をキャッチし難くなっていると思う。また私が大きな声(が良くないことは頭ではわかっているのだが、つい)で叱ると、子どもには言葉の意味情報が届いておらず、只々「ママが怒ってる」という事態のみが伝わっているように思う。加えてこれが「響く」環境になると、声が増幅され、うるさい・聞き取れない・伝わらない→大声になる・気持ちが昂ぶる、の悪循環に陥り、さぞストレスだろうと痛感している。

また、以前利用していた保育園では、「響き過ぎ」問題に直面した。室の吸音不足と、モデルルームのようにスッキリとした使用状況(内装環境)が災いし、吸音力が低かった。朝登園すると、ある子どもがレゴで遊ぼうと、箱を「ドンガラガッシャーン」とひっくり返した。文字通りの甲高く耳が痛い音で、思わずびっくりしてそちらを見ると、当の本人や周りの子どもたちは平然と遊んでいたのだ。私にとって驚くべきその音は、子どもらにとっては日常の音となってしまっていた。これでは子ども自身の声だって大きくなって然りである。その後、一保護者として恐る恐る園長に直談判してみたところ、施設側の理解があり、吸音改修を施してくれた。また、この話をママ友にすると、「それってどんな影響があるの?」ととても熱心に聞いてくださった。やはり皆我が子のこと、「音」を切り口に保護者の意識に働きかけていくことも大切なことだなと感じた。

研究での訪問先の事例から

身近な場面から一転し、「こんな場面があるのか」と驚いた例を紹介したい。一つ目は、ある認定こども園でのことだ。“静けさ”を園生活の土台として大事にした保育を実践している園で、静かな音環境が生活の落ち着きを支え、また子ども・先生の落ち着いた行動が静けさをつくりだしている。この園で驚いたのは、歌の場面であった。合唱団のような音程感、歌声のきれいさにまず驚いたが、そこでの子どもたちの歌う姿-競わず、皆で聴き合い共に歌う、そんな雰囲気に、感動を覚えた。静けさが「聴く力」を育むことを直感した場面であった。

二つ目は、ドイツで実地調査を行った時の話である。(詳細は別報*参照)個性豊かな保育スタイルが興味深かったが、中でもシュタイナー教育を実践している幼稚園では、「静寂さ」の重視で知られた通り、落ち着いた園環境であった。木造、非対称な形状の保育室、落ち着いた暖色系の光環境、吸音が施され響きの少ない音環境。子どもたちは、各自好きな活動に打ち込んでおり、子どもの声は方々から聞こえてくるものの、それらは干渉し合うことなく落ち着いた時が流れていた。園長にどのような音環境が良いのか尋ねると、「音を音として伝える、ということを大事にしている」との回答があった。何の音か、誰のどんな気持ちの言葉であるのか、これらを「そのものとして伝える」ということ、この表現に思わずハッとした。吸音や騒音を抑えることは、生活者にとり、音-その背後にある「事」や「思い」を伝える・受け取ることを支えているのだろう。また、園舎を持たず「森」で活動する森の幼稚園も興味深かった。森ではあるが、自由放任というわけではないようで、訪問の際はいわゆる「クラス活動」の輪に入れてもらった。歌を歌ったり、動物の足跡についての議論を行ったりと、グループの集いの後、森へ散策に出かけた。訪れた冬の森の中では、多少大きな音が発せられても、それはほんの小さな存在で、にぎやかさに溢れる喧騒感とは無縁であった。森の音環境は、なかなか都会では味わい難い、「自然の中に居る」という感覚をもたらせてくれた。ただ夏はどうなのだろう…虫たちの合唱に包まれるのだろうか。季節を改めて、また訪ねてみたい。

子どものための音環境づくりに向けて

 これまでの研究成果を広めていくため、この3月、本学会副会長船場ひさお先生と共に、(一社)こどものための音環境デザインを立ち上げた。子どもを中心に、建築、教育・保育、福祉、地域社会、様々な観点からより良い音環境づくりを広めていきたい。

(明治大学・(一社)こどものための音環境デザイン 野口紗生)

*[文献] S. Noguchi, et.al, “The sound environment of German preschools and preschool teachers’ thoughts about sound generated by children”, Proceedings of ICA 2019, pp. 5953-5960, 2019.9.

 

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