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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

インターネットと騒音苦情(Vol.43 No.4)
インターネットと騒音苦情

インターネットと騒音苦情

私が大学を卒業した頃はまだ時代はアナログで、世の中ではパソコン通信という電話回線を使った情報網が普及し始めた頃だった。地方に住む私は、東京のアクセスポイントまで長距離電話をかけ、24009800bpsという今では考えられない低速でファイルの交換を行った。個人個人が電話機を持ち歩く時代はまだ遠く、ポケットベルが全盛を迎え、サラリーマンはポケットベルが鳴ると公衆電話に走っていた。正しい情報を得るためには、図書館や書店に通い、時間をかけて必要な情報を探した。

 僅か30年ほどで状況は大きく変わり、一般の家庭でも数十M1Gbpsで世界と繋がり、昔のパソコンの数百倍の速度と機能を持つスマートフォンを小学生から老人まで携帯している。幾つかのキーワードを入力するだけで、世界中から膨大な量の情報を一瞬かつ無料で集めることができる。買い物も日々の献立も時刻表ワールドワイドにインターネットを通じて行われている。このように世界中の情報にアクセスし易くなったばかりでなく、情報を世界に向けて発信することも簡単になった。多くの人々が日々の出来事をインターネット上に呟き、今日の食事の写真をアップロードしたりしている。列車に乗ると右にも左にも周りの人々の殆どがスマートフォンを開きのぞき込み、盛んに指を動かしている。昔は個人と世界の間には結構な隔たりを感じたが、今ではその壁が溶けて消えてしまったようだ。

 このように生活にすっかり根付いたインターネットなだけに、企業、学会などの公益団体、行政、教育機関のホームページ、wikipediaや地図情報などの正しい情報はとても有用である。一方で個人の感情に任せた情報、思い込みによる情報、個人の経験に基づいた誤った情報、恣意的な正確さに疑問のある情報も世界中にあふれている。特に感情に任せた情報は、情報発信することがトレスを発散するための行為であり、情報の正確さも確認されないまま大量に世界に公開されている。しかしこのような感情的な情報ほど人の共感を得やすく受け入れられやすいようである。

 更にここ数年報道機関などの優良コンテンツは有料化の方向にあり、感情的であったり恣意的な無料の情報ほど容易にアクセスしやすくなっている。それどころか旧来は独自に取材し情報の確実性を売りにしていたマスコミすら、インターネット上のコンテンツに頼るようになり、「ネットでは…」と、インターネット上の情報が権威を持ち、真しやかに語られるようになってしまった。

 すっかりネット社会に馴染んだ今では、様々なシーンでネット上の情報を利用しているが、特に困った時は自分が立たされた状況がどのようなもので、どのように対処するべきか、あるいは共感を求めて、先ずはインターネットにアクセスし、その中から自分に役に立つと思われる情報をかき集め、さらにインターネットに呟く。集めたられた情報の正確さや自分の状況とインターネット上の状況との相違点などを正しく吟味することは、よほどその事情に通じた者でなければ不可能だろう。そのため自分に都合の良い情報になびき、不都合な情報から目をそらし、それぞれの都合に合わせて解釈してしまうこともあるのではないだろうか。

 騒音苦情者の話を聞いていると、自宅前の高圧電線から低周波音が出ているなど、専門家として有り得ない理論を聞くことがある。よくよく話を聞くとその理論はインターネットから入手した情報ということが多い。騒音苦情者も例に洩れず自分の置かれた状況をネットワークで検索し、正しい情報も誤った情報もごちゃまぜのネットワーク上の情報から、自分が共感を得られる情報を選び、新たな理論を再構築しているのかもしれない。例えば低周波というキーワードで検索した結果、低周波音も低周波振動も低周波電磁波も低周波治療器も一緒くたに検索されて解釈され、自宅前の電線から低周波音が発生することにったのであろう。

 しかしながらこのような突飛な理論を一方的に責めることはできない。このような理論は、それぞれの苦しい立場を理解し改善しようとした結果だからだ。

 私たちは、これまで正しい情報の発信を心がけてきているが、どうも専門家向けの傾向が強く一般の人に解りにくいような気がする。法律を難解な法律用語のまま解説したり、物理的専門用語を難しい数式を交えて説明したりしていないだろうか。

 正確な情報を発信することは当然だが、正しい情報を噛み砕いて誰にでもわかりやすくし、誤った情報以上に騒音苦情者に寄り添うような情報発信を心がける必要があるのではないだろうか。

 

(山梨大学 北村 敏也)

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