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会員コラム

バドミントンの音の魅力とベルヌーイの定理 (Vol.43 No.5)
バドミントンの音の魅力とベルヌーイの定理

バドミントンの音の魅力とベルヌーイの定理

前回のリオデジャネイロオリンピックで女子ダブルスの高橋礼華・松友美佐紀ペアが長身のデンマークペアに対しファイナルゲームの土壇場で大逆転して金メダルを獲得したとき,全員バドミントン経験のあるうちの家族はテレビの前で雄叫びをあげて歓喜し,その後ビールを飲み過ぎて二日酔いになりました。誰か一人,銅メダルでも良いので何しろメダルを獲ってほしいと毎晩神様にお願いしていた無神論者の私の願いは最高の形で叶ったことになります。その後の日本のバドミントン界の世界への台頭は関係者でさえ予想を超え世界大会で上位入賞することが当たり前の状況になっています。現在2020年の東京オリンピックに向けてオリンピックレースの真っただ中で国内でも競争が激化しています。特に女子ダブルスの上位3チームは20198月の世界ランキングで13位を独占しているにもかかわらず、出場枠が2つしかないという熾烈な状況です。

自分も含めたバドミントン愛好者はシャトルを打った瞬間の音と手腕に伝わる振動を合わせた「打撃感」に快感を覚えていると思います。気持ち良く打ち返せたときには、おそらくストリングスとシャフトの弾性を含むラケットの各部位と身体の各部位のばねと質量がうまく連成して力を生み出しているのでしょう。逆に言うと気持ち良く打てるように調整していけばフォームも自ずと無駄なく綺麗になっていくはずです。また、この「打撃感」は体育館の広さや壁面の吸音状況によっても大いに変わります。丁度良い広さと適度な壁面からの反射音がある体育館でプレーするとあたかも自分のスマッシュがいつになくズドンと決まって快感を覚えたりしますが、これは正に“音によるまやかし”で錯覚に過ぎないとも言えます。このまやかしも含む打撃音と癖になる打撃感がバドミントンの魅力の一つだと考えます。

バドミントンプレーヤは相手がシャトルを打った瞬間に打撃の方向を見極めます。相手の打撃に合わせて軽くジャンプする動きは次のステップへスムーズに移行するために特に初心者にはお勧めですが、いずれにしても打撃方向の読みが外れるとその時点でラリーを続けることが困難になります。この読みの瞬間、シャトルの打撃音も重要な情報を持っていると考えられます。各国で行われる世界大会ではお国柄によって会場の音の状況も大きく変わりますが、特にバドミントンを国技とするインドネシアでは観客がラリーに合わせて掛け声を出すため、選手は自分の打撃音さえも聞こえない状況となりプレーに影響すると聞いたことがあります。

バドミントンはスピードと繊細さの双方が要求される競技です。というのも水鳥の羽とコルクでできた5グラムしかないシャトルコックは空気の流れの影響をもろに受けるからです。ラケット面をフラットにして強打するスマッシュに対して、スライスショットはスマッシュと同じスウィングでラケット面を傾けて右や左にスピンを掛けるストロークですが、おもいっきり振り抜いているにも関わらずスマッシュよりもストンとネット際に落ちるため、レシーブ体勢に入っている相手の意表をつくショットになります。この「スライスショット」と流体力学で有名な「ベルヌーイの定理」が密接に関連していると私は考えています。

通常の水や空気の流れでは、流れの速さと圧力の間にベルヌーイの定理と呼ばれる関係が成り立ちます。これは、「流速が速いところほど圧力が小さい」というものです。右利き左利きの違いはありますが、今フォア側からクロスにスライスショットを打つ場合を想定し、シャトルコックの右側をカットするようにスピンを掛けたときのシャトルコック周囲の空気の流れを考えてみます。シャトルコックの右側は回転方向と移動に伴う空気の流れが相反するので流速は相対的に遅くなります。反対に左側は回転方向と移動による空気の流れが同一方向なので流速は速くなります。ベルヌーイの定理がシャトル周りの空気の流れで成立しているとすれば、流速が遅い右側に比べて流速が速い左側の圧力は相対的に小さくなります。当然、圧力の大きい方から小さい方に力が働きます。すなわち、シャトルコックは左に曲がっていきレシーバーから逃げるように切れ込んでゆくことになります。これは野球のカーブボールの原理と同じです。もちろんバドミントンプレーヤは、ラケットや身体のバネの連成やシャトルコック周りの流体の流れを意識する訳ではなく、積み重ねた膨大な練習の経験から感覚としてスムーズな身体の動きやよりスピードの出るラケットワーク、相手の読みを裏切るショットを体得していきます。頑張れ、ニッポン!       

 (リオン 大島 俊也)

 

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