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会員コラム

博多祇園山笠の音風景(Vol.41 No.5)
博多祇園山笠の音風景

博多祇園山笠の音風景

国の重要無形文化財に指定されている博多祇園山笠は776年続いている伝統のある祭りであり、1996年には日本の音風景100選に選ばれている。昨年11月にユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、山笠に舁き手として参加している者から改めてその音風景を紹介させていただきたい。

静寂から一瞬にして最高潮の盛り上がり、そのギャップが大きいほど人を惹きつける何かがあるというのは良くあること。山笠のクライマックスは最終日の追い山櫛田入り、中でも一番山の櫛田入りは特別だ。追い山当日の櫛田神社内桟敷席は超満員、神社前の土居通りの歩道にも全く身動きが取れないほどの人混み。そして境内には舁き山が通れる幅を残して大勢の舁き手がひしめき合っている。大勢の人がいる割に喧騒感があまり感じられないのは、桟敷席の人たちへ向けて山笠の歴史や行事のあらましを解説する放送に耳を傾ける人が多いからであろう。その放送も一番山が出発する10分前には終わるが、放送が終わっても、いよいよ始まるという期待や緊張からか多少ざわざわする程度で、残り時間を知らせるアナウンスが時々大きく響く程度である。

1分前」、櫛田神社境内にそのアナウンスが響き渡ると、桟敷席からは更に高まる期待感からか、少々のどよめきがあった後は心なしかそれまでよりもざわつきは小さくなる。「30秒前」、櫛田入りに選ばれた舁き手達が舁き山の棒に付く。もはや喧噪さは感じられない。「10秒前」、全ての舁き手は山笠の無事の奉納に全神経を集中し、言葉を発する者はほとんどいない。「5秒前」、桟敷席も静まり返る。これだけ大勢の人がいる中で静けさすら感じる。この静けさが舁き手の集中力と緊張感をより高めさせるのであろう。ほどなくして前捌きの出発合図「サン、ニ、イチ」、大勢がひしめき合う中で一人の声が割と良くとおる。そして出発合図の太鼓が「ドーン」と鳴り響くと同時に舁き手たちが一斉に「ヤーッ」と叫び舁き山が持ち上げられ、「オイサッオイサッ」の声と共に疾走していく。境内の舁き手と桟敷席の観客からは一斉に大きな拍手。この一瞬にしての静と動の切り替わりは何度立ち会っても鳥肌が立つ。静寂を切り裂く大きな掛け声と拍手が、山笠全体の静と動の一瞬の切り替わりを際立たせるのに重要な要素になっているのは間違いないだろう。

いよいよ山は動き始めたが、一番山のみ境内の清道旗を回ったところでいったん舁き山は止まる。ここで再び境内は一瞬の静寂に包まれる。程なくして「祝い目出度の~若松様よ」と舁き山台の表(前)中央に座った棒捌きが歌う博多祝い歌が静かに響く。続いて境内の舁き手たちも一緒になり「若松様よ、枝も栄ゆりゃ」と大合唱となって続いていく。このピアニシモからフォルテシモへ一瞬にして代わる様が、祝い歌の奉納をより荘厳なものにしている。

祝い歌の奉納が終わると「ヤーッ」という声と共に再び山が動きだし「オイサッオイサッ」の声を残して境内から出ていく。そこからは東長寺と承天寺の前の清道を周るなどして博多の街を駆けめぐる。沿道からは舁き手の「オイサッオイサッ」の声の他に、棒捌きや前捌きが舁き達に出す指示の声も聞こえるであろう。舁き手には、舁き山足元の銅金が1トンの重みを受けて火花を散らしながらアスファルトを擦る「ゴー」という音も聞こえる。追い山は5km30分ほどで駆け抜けるので舁き山の速度は意外と早い。その速度を緩めないよう舁き手はどんどん入れ替わるのであるが、山に付いている舁き手たちの狭い隙間を縫って入れ替わるのに、一寸でも気を緩めて足を取られて転んでしまったら、あっという間に舁き山の下に飲み込まれてしまう。その「ゴー」という音は、怪我と隣り合わせということを感じさせるものでもあり、山へ付く際の舁き手に緊張感と集中力を高めさせる効果があるとも言えよう。

博多の街を5km駆け抜け石村萬盛堂前の決勝点を過ぎたところで舁き山は一旦止まるが、台上がりと舁き手たちが整然と入れ替わるとすぐに本コースの勢いそのままに自分たちの町内にある山小屋へと戻っていく。私が所属している中洲流れは、決勝点からほどなくして中洲町内に入る。中洲のビル群の中に入ると、ビルの谷間で「オイサッオイサッ」の声が反響してより一層大きくなる。個人的にはこの響きを聞くと「今年もいよいよ終わりだなぁ」と感じる。山小屋の前で止めた舁き山を囲んで皆で歌う博多祝い歌は、ビル群からの反射のおかげでちょうどよい残響音となり、櫛田神社境内で歌う(聞く)ものとは趣が異なる。歌い終わると博多手一本を入れ、何百人という「お疲れ様でした!」の声が中洲の街中に響き渡る。締めにふさわしいなんとも心地の良い大音量である。こうしてようやく山笠が終わり、山笠行事のいろんな音に代わって、クマゼミどもが圧倒的音量でシャーシャー鳴く音が博多の街に響くいつもの朝と戻っていく。

((一財)成田国際空港振興協会 川瀬康彰)

 

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