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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

騒音防止技術(耐候性吸音材)に係る想いと願い (Vol.38 No.1)
騒音防止技術(耐候性吸音材)に係る想いと願い

騒音防止技術(耐候性吸音材)に係る想いと願い

1、初めての騒音問題

 私が日本碍子㈱に入社した昭和40年頃は世界的に送電電圧の超超高圧(50万ボルト~100万ボルト)化が進んでおり、超超高圧用碍子(がいし)の開発研究に携わることとなった。日本碍子の製品開発は実物実証主義が基本である。小牧市に新設された高電圧研究所において、日々持ち込まれる新型の碍子や雷撃保護装置に数百万ボルトの電圧を加える試験に明け暮れていた。絶縁が破壊されると大音響とともに火柱が走る。私は深夜まで轟音と閃光を発生させていた。

 当時小牧地区では名神高速道路が建設中で、近くの工事飯場の長から厳しい苦情の電話があった。直ちにお詫びに伺ったところ、午後8時以降の試験禁止を条件に了解いただいた。時間制限だけで済んだのは、即刻対応したことと、当時は技術立国を願う開発支援のムードが今より強かったことによると思う。

私が体験した最初の騒音問題、騒音防止協定である。

2.電力施設の騒音対策とセラミック吸音材の開発

昭和46年、私は新事業を開発する部署に移った。その前年に公害国会と呼ばれる「第64回臨時国会」が開催され、騒音規制法をはじめ各種の公害防止関連の法令が整備された。「発変電所等における騒音防止対策指針」((社)日本電気協会)も発行され、各電力会社が公害対策に本格的に取り組みだした年でもあった。  

私の開発テーマに「騒音防止」が加えられた。

吸音特性に優れるウール系吸音材は、保水による吸音率の低下や周辺部材の腐食、気流による繊維の飛散など、その耐久性がすでに問題になっていた。碍子はほぼ無劣化のセラミック製であるため、「碍子で吸音材を作って来い」という声が某電力会社の幹部から聞こえてきた。半分冗談だったかも知れないが、想えば、セラミック吸音材を世に出した天の声である。

日本碍子は下水処理事業も行っていて、汚水槽に空気の泡を送り込む散気タイルを製造しており、この散気タイルを目にされた東工大の松井先生らが吸音材としての可能性に着目されていた。ただ、当時の散気タイルは吸音帯域が狭く、また屋外使用時の耐凍結性などにも不十分なところがあった。

松井先生や武蔵工大の小西先生、大林組技術研究所真藤氏などの指導を得て改善研究に臨み、吸音材の解析検討の手法として等価電気回路を選んだ。吸音特性の改善が、私には馴染みのインピーダンスマッチングの問題に変わった。等価回路からは所定の流れ抵抗と、より高い気孔率、より薄厚の多孔体が望まれ1)、素材の強度アップや磁器粒子・釉薬などの構成変更が必須となった。施工面から複数枚を枠に収める構造も求められた。幸い社内各部門の協力により一年余で課題を克服、高耐侯性セラミック吸音材が誕生した。

直ちに、関西電力㈱と共同でセラミック吸音パネルを用いた防音壁の実証試験を行い、種々の音源条件に対応できる設計データが蓄積できた。米国電気学会も昭和30年代に変圧器騒音について実験研究を精力的に進め、吸音性防音壁に関する推奨曲線を発表していた。我々の実証試験の結果はこの推奨曲線を支持し、さらに多様な対策予測を可能にするものであった。

昭和49年に(社)電気協同研究会内に変電所低騒音化専門委員会(私もWGの一員)が設けられ、騒音対策の具体的手法を検討していた。この委員会で上記の実証試験結果が評価され、電力施設の騒音対策にセラミック吸音パネルが広く採用されることになった。

3.道路、地下鉄、ホールなどの騒音対策

高速道路の防音壁や地下施設換気所の騒音対策でも耐久性が評価されてセラミック吸音材が採用された。

衝突時に粉になるトンネル用、排水性に富む舗道用、意匠性を高めたホールやプール用など、用途毎に求められる性能を加えたセラミック板が世に出て行った。

碍子製造で培われたセラミック技術により多孔質ながら高強度の磁器板が得られたものである。形状だけ似せた吸音性能の低いものなど、類似品が世に出てセラミック吸音材が不当に評価されたこともあり、忸怩たる思いもした。納品された材料の音響特性や強度等を現場で評価できる技術や測定システムが早期に実用化され、広く利用されることを願っている。

等価回路が求める最薄厚の吸音体に遂に出会った。アルミ繊維吸音材と透明フィルム吸音材である(㈱ユニックス、森本徹氏の発明による)。流れ抵抗を最適値に調整して、軽量性と耐候性を生かした高架下反射防止パネルや壁頂円筒パネルを開発、さらに透光性吸音パネルの需要拡大などに尽力することとなった。

4.結言

かつて無い特長を有する素材を求め、そして出合い、用途の要請に応える工夫から新たな需要が生まれた。今後も、多くの新規な機能部材やシステムが誕生し、静穏快適な空間が広がっていくことを願っている。

主に公共施設の騒音対策に関ってきたが、環境問題に携わる方々が新たな試みを歓迎し評価いただいたことに深謝している。親しくご指導いただいた先生方や諸先輩、支援いただいた多くの皆様に心から感謝申し上げます。

(1)「硬い骨格を有する多孔質吸音材の望ましい構成条件-等価回路による検討-」音学会誌1997,7

古賀正輔

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