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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

熊本大学矢野・川井研究室の紹介 (Vol.36 No.3)
熊本大学矢野・川井研究室の紹介

熊本大学矢野・川井研究室の紹介

本研究室は、学部組織としては工学部建築学科にあり、建築環境工学の研究室として主に音の分野を扱っています。メンバーは教員が2名、今年度の学生は学部から博士課程まで13名が在籍しています。このところ耐震構造やエネルギー問題など、当面の大きな課題のために建築音響研究室の学生の人気は今ひとつですが、少数精鋭、実験室・現場実験から大規模な社会調査まで、また騒音評価分野からサウンドスケープ研究まで、音と人とのかかわりを対象とした研究を広く手がけています。研究施設は無響室と上下に連結した残響室があり、心理実験や音源・材料特性の測定に活用しています。研究室の行事として10年以上続けている大分大の建築音響研究室(大鶴・富来研)との年2回の合同ゼミがあります。先方は物理解析、当方は心理評価が専門で、異分野間交流として視野を広げるよい機会となっていると思います。

 研究活動について紹介します。まずは研究室の基幹テーマといえるのが交通騒音への住民の不快感反応に関する調査研究で、これは20年来継続しています。ここ数年は交通量の増大が著しいベトナムの都市での調査と、昨年に全線開業した九州新幹線について、開業に伴い騒音源が変化していく条件下での調査という、二つの課題に取り組んでいます。当研究室にはベトナムからの留学生現時点で3名所属していますが、ベトナムでの調査には彼らが大活躍します。サンプル1000人規模の面接調査や24時間騒音測定での現地のアルバイト学生の統括、さらに日本人スタッフの宿や現地交通の手配までを、彼ら留学生が取り仕切って遂行してしまうのには感嘆しました。こうした海外の調査には日本人学生も参加し、騒音測定の機材操作などを担当しました(図-1)。バイクにあふれる信号のない大通りを歩いて渡るのはなかなか難しいのですが、学生達も次第に慣れて、道路端の屋台での昼食など、異文化に触れるよい機会となったと思います。こうした調査の成果を国際会議で発表することも多く、学生も果敢に英語での発表の場に出て行くなど、地方大学にあって比較的国際色の高い研究室といえるのではないかと思っています。

                                      図-1 ハノイでの道路騒音測定

 この交通騒音に関する調査研究とともに、サウンドスケープの観点を取り入れた「より快適な音空間」づくりをめざした研究も手がけています。以前には、熊本市内の中~大規模店舗の店内音環境の全数調査を実施しましたが、これは「騒音レベルが低ければよいというわけではない空間」をどう評価・計画するか、という課題に取り組んだものです。ここ2年ほどは保育園の保育室における吸音の効果に着目した現場実験を続けています。保育室は一日平均80デシベル超といった報告例があるように知る人ぞ知る高騒音レベル空間ですが、一方で建築音響設計上の基準やガイドラインは存在せず、保育園の園児たちはこうした空間で一日の活動時間の大半を過ごすわけで、それは大きな問題ではないか、というのが研究の着想でした。その後、現場実験に協力してもらえる保育園が現れ、ポリエステル吸音材を保育室の天井に糸で吊る(図-2)、というやり方で現場実験が実現しました。2年間にわたり条件を変えつつ騒音レベルを測定したところ、吸音により明らかに室内のレベルが下がり、また当初はやかましいのが当たり前で音を気にしたことがないと話していた保育士の方からも、雰囲気が落ち着いたとして大変好評でした。保育園という身近なところに潜在的な「より快適な音空間」があったことを示したという手応えがあり、しばらくは保育空間の音響設計のあり方について研究を続けていく予定です。また最近は保育室用の吸音板として熊本県産木材で製作した孔あき板を使用するなど、地元貢献も図っています。

                          図-2 保育園での吸音実験と県産材吸音板の施工

川井 敬二(熊本大学大学院自然科学研究科)

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