会員コラム
- 三重大学ナノセンシング研究室の紹介 (Vol.36 No.4)
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三重大学ナノセンシング研究室の紹介
三重大学ナノセンシング研究室の紹介
本研究室は,音や光(電磁波)などの波動を利用した計測技術および関連の信号処理技術などに関する研究を行っています。光(電磁波)関連の研究は主に竹尾隆(教授),音関連は野呂(准教授)が担当しています。今回は私の担当である音(騒音)に関連する研究テーマについて簡単に紹介させて頂きます。現在,研究室で取り組んでいる音関連のテーマは大きく分けて4つあります。騒音制御と関連しないものもありますが,各テーマ毎に以下に概略を説明させて頂きます。
(1)環境騒音および住民反応の予測
環境騒音の評価量であるLAeqは基本的に同一の観測点において24時間の測定を前提としています。そのため広範囲にわたって面的調査を行うには多大な労力を要します。一方,JISでは十分な精度を確保することを条件に測定時間を短縮したり予測による方法も認めています。本テーマでは,短時間のLAeq の実測値に観測点に関する騒音以外の情報(地域類型,季節,時間帯,道路からの距離等)を加えて,ニューラルネットワーク(モデル)やサポートベクターマシンを使って長時間のLAeqの測定値を予測することを研究しています。また,騒音レベルだけでなく,その地点の騒音に対する住民の反応(アンケートに対する回答)を同時に予測することも試みています。
(2)機械動作音に対する印象の予測
これは某プリンタメーカーさんとの共同研究です。そのため予測対象としている機械はプリンタ複合機(MFP)ですが,研究手法そのものは他の機器でも同様になるかと思います。印象の評価は試験音を被験者に試聴してもらう実験をSD法や一対比較法により実施し,因子分析などにより解析を行います。これにより対策すべき音源の特定や対策の効果を確認できますが,研究の目的はこの分析結果(印象)を物理的評価指標(例えば,LAeq,ラウドネス,シャープネス,ラフネスなど)から予測することです。現在,特に注力しているのは,周囲騒音がある場合の動作音の評価と予測です。なるべく実環境に近い条件で動作音を評価したいと考えています。
(3)体導音による掻破行動量の測定
これは当大学医学部(皮膚科)との医工連携の共同研究です。タイトルだけでは何のことかさっぱり分からないと思います。簡単に説明させて頂きますと,アトピー性皮膚炎などの痒みを伴う慢性疾患の症状把握や薬効評価のために患者が皮膚を掻く行動(これを掻破行動といいます)を音を使って検知するシステムの開発です。音といっても空気中ではなく,体内を伝わる音(振動)を手首に装着した特殊なマイクロホン(センサ)でとらえて睡眠中に無意識に体を掻く行動量を自動計測するシステムです。現在,試作機(BIOtech 2012 に出展)が出来上がり評価試験を行っています。従来の患者の自己申告やビデオ動画の解析に代わる標準的な評価方法となることを目指しています。
(4)歌唱音声の評価に関する研究
当大学の教育学部(音楽科)の弓場徹(教授)の開発した発声練習法(YUBAメソッド http: //www. yubamethod. com/)を支援するソフトウェア(歌唱音声の評価法)の開発を行っています。音程の判定だけでなく,地声/裏声といった声質の判定を行うことを目標としています。
このように様々な分野の方々の協力を頂きながら研究を進めており,これらの具体化・製品化により社会に少しでも貢献できればと考えております。
図-1 試験音の作成等に使用するダミーヘッド
図-2 掻破行動量測定システム(試作)
野呂 雄一(三重大学工学部)