日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

金沢工業大学土田研究室の紹介(Vol.35 No.6)
金沢工業大学土田研究室の紹介

金沢工業大学土田研究室の紹介

本研究室の主たる研究課題は音環境ですが、建築環境系の研究室ということもあって光環境などの分野も研究テーマとしています。これらの分野を環境心理という視点から総合的に探究する点が特徴です。建築は文化を扱うということを念頭に、研究にも風土や歴史を踏まえた視点を持つようにしています。

研究施設としては、2009年に完成した研究所に無響室と残響室を保有しています。学部の講義が行われるキャンパスからは車で20分程離れているので移動に多少の不便はあるものの、環境的には充実しています。

研究室の重要なテーマはサウンドスケープです。現在は庭園を多く取り上げています。庭園には人間の環境に対する認識が凝縮されており、そこから我々はどのように環境をとらえ、どのように環境をデザインしようとしてきたかの歴史が分かるのです。例えば池泉式の庭園には滝やせせらぎなど、音の出る仕掛けが多く存在します。茶室に附属する露地(茶庭)では、蹲(つくばい)や水琴窟といった装置があるのも音を意識させるように作られていることをうかがわせるものです。

サウンドスケープ概念は音環境の整備全般を目指しますが、それはモノのデザインにとどまりません。人間の心に働きかけることも、デザインの一環であるとされます。そのため、音への感受性を育む「サウンド・エデュケーション」も重視しているのです。自治体や学校などの求めに応じて、研究室でもワークショップを企画・実施しています(図1)。

心理的認知構造を読み解く技術も重要になります。心理的印象と環境要素の関係を示す心理的システムである認知構造は、まずは定性的な把握が必要です。分析の方法としてはKJ法がまず思いつきますが、より客観的で効率的な方法の工夫がされるようになってきました。「評価グリッド法®」(注1)はその一つです。

この手法は、対人関係等に関する意識を探るという臨床心理の技法として開発されたレパートリー・グリッド法が元になっています。評価グリッド法は好ましさの異なる対象に対して、「本質的な着眼点は何か(抽象化)」、「差異を生じさせる具体的条件は何か(具体化)」のようにラダーリングという質問を繰り返すことで認識の階層構造を導き出すものです。本研究室ではこの手法をパソコンによって支援するソフトを開発しました(注2)。

しかし、ラダーリングという手続きは、被験者自身が対象を論理的に認識できないとうまくいきません。被験者によっては単なる言い換えになってしまったり、抽象化と具体化を混同してしまったりします。そのような場合に効果的な方法としては「PAC分析」というものがあります。この方法も臨床心理の分野で開発された方法で、自由連想した事柄の主観的な類似度を元にして認知構造を得るものです。被験者のあいまいな認識を、クラスター分析を用いることで樹形図(デンドログラム)として目に見える形に変換することができます。それに基づいて認識の抽象化や具象化を行うので、論理的な思考をあまり行わずに階層化できるのです。この手法についても支援ソフトを開発しています(注3)。

 

質的な観点から音環境の持つ意味をとらえることは、量的な尺度だけでは測りきれない文化的価値を明らかにすることにつながります。空間の雰囲気のような高度に心理的な対象には、音の質的な情報が関与しています。現場でどのような音が発生しているのかを詳細に調査するとともに、心理的な事象を読み解くという研究を続けています。

 

図1 サウンド・エデュケーションの様子

1)「評価グリッド法®」は開発者の讃井純一郎氏によって商標登録されています。

2)土田義郎、小酒裕貴:評価グリッド法支援ツールの開発と応用, 日本建築学会技術報告集, Vol. 14, No. 27, pp. 205–208 (2008).

3)土田研究室・PAC分析支援ツール:http://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/~tsuchida/lecture/

pac-assist.htm(2011年9月20日現在).

土田義郎(金沢工業大学環境・建築学部)

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