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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

研究のはじめに(Vol.33 No.6)
研究のはじめに

研究のはじめに

昭和36年東京大学生産技術研究所で,まず騒音測定をすることとなった。その前に,騒音計(当時は指示騒音計といった)の較正をしなければならない。それには,マイクロホンにあてた笛を吹くことになっていた。その方法を,当時石井聖光先生の研究室にいた朝生周二氏が指導してくれた。最初に自分で吹いてみせてから,私がやってみることになった。ところが,なかなかうまく吹けない。それではダメだということで数回吹いてやっとOKがでた。いささかうんざりしたが,これが出来ないと測定がはじまらないのだから仕方がない。

それから10年位のちに,ある空調設備工事会社の社長さんと騒音の話をしていたとき,その社長さんから会社で指示騒音計を購入したときの話をきいた。最初に笛を吹いて較正することになったが,なかなかうまくいかない。そこで「そうだあいつを呼んでこい」ということになった。そのあいつとは,社内でも有名な尺八の名手であったとのことである。

それからさらに20数年後に,今度は,東京都の公害審査会の委員として,小林理学研究所を訪問する機会があった。そのとき。所内の博物館を見学させていただいた。そこのガラス・ケースの中にあのなつかしい笛があったのである。いっしゅん,もう一度この笛を吹いてみたい衝動にかられた。しかし,数年来わずらっていた気管支ぜんそくの身では,笛の音よりも,私の気管支から発生するであろう気流音が心配で,笛吹きをあきらめた。

〇研究の流れ

 昭和36年大学院に入り,いまだ千葉から引越し中の六本木に勝田髙司先生の研究室を訪ねたときから研究がはじまる。空気調和・衛生工学会の創立40周年依託研究が,渡辺要先生,勝田先生の両研究室共同で行われることとなり,修士課程1年の私が担当することとなった。この研究は,送風時におけるダクト系統の発生騒音に関するものであり,その後40数年にわたり設備騒音にかかわる糸口となった。

当時の両研究室には,石井聖光先生,後藤滋先生,寺沢達二氏,平野興彦氏,朝生周二氏などがおられた。簡易騒音計にしかふれたことのない私に,前述の支持騒音計はもちろん,石井先生手づくりのべニヤのケーシングにマジックで目盛りの書いてある各種測定器の使用方法を教えて下さったのは上記の方々である。

 当時,後藤先生が送風設備の騒音制御について学位論文をまとめられた後であり,新しく完成した無音送風装置と給排気口を有する残響室とを用いて,送風機,ダクト直管部,曲管部,分岐部,混合箱,吹出口,インダクション・ユニットなど,ダクト系各部の気流特性,音響減衰特性,気流による発生騒音などの研究を行った。この実験装置も地下鉄千代田線の工事とともに取りこわされた。

 昭和43年には日大生産工学部に移ったが,ドライバー1本,半田ゴテ1本もなかった。何とかしようと努力したが,学園紛争もあり,新しく実験室が完成したのは昭和46年であった。東大生研の装置を模型としてひとまわり大きい実験室とした。

 昭和49年には米国出張のチャンスがあり,MITBBNCarrierJoyMitcoCSUなどを訪問し,IngardBaadeKerkaBiencoGalaitsisGorchevBullockなどと知り合えたのは大変参考になった。

 その後も空気調和設備に新しいシステムが導入されつづけ,高圧の軸流送風機,定流量あるいは変流量ユニット,グラス・ファイバ・ダクト,フレキシブル・ダクト,個別空調機,ヒート・ポンプ・ユニットなど新しい音源にはことかかない。

 それにつけても,コンサート・ホールやオペラ・ハウスの設計,コンピュータ・シミュレーションなどのはなやかさに比し,実験の99%の時間は,ダクトのセッティングととりはずしに要し,まさに3Kのからまりのようなところがあり,若い学生諸君(後半は女子学生が多い)をなだめすかすのが大変であった。

〇おわりに

 最近の空調設備は,一部を除いてセントラル方式から個別方式へ大きく移行している。かつては,コイル,エア・ワッシャ,空気調和器そのものまで設計していたエンジニアは,メーカのカタログから選定するのみの悪くいえば,カタログ・エンジニアなる傾向がある。そうなると,メーカの機器そのものの騒音特性がますます重要になる。ところが一部とはいえ,正しい騒音データの示されていないものがあるのは,誠に残念である。

 その解決のためには,運転状況も踏まえた騒音測定方法の規格が大切である。しかし,規格があっても,使わない,あるいは正しく使わないのでは,まさに絵にかいたもちになってしまう。

(日本大学名誉教授 坂本守正)

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