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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

研究機器と研究手法を回顧して(Vol.32 No.3)
研究機器と研究手法を回顧して

研究機器と研究手法を回顧して

1.はじめに

 平成18年5月の総会において研究功績賞を頂きました。本会設立以来の会員として大変光栄に思っております。これも研究の指導・助言・援助をしてくれた先輩・同僚・部下・学生のお陰であり、心から感謝しております。

私が研究と名の付くことを初めたのは、大学の卒業研究であって、1960年4月のことです。課題は、原子炉の燃料棒から冷却水への熱伝達を模擬するものであって、その後の研究課題と随分異なっていますが、実は授業の中で熱に関するものが余り好きでなかったので、大学最後の思い出にと考えて敢えて選んだのです。しかし実験装置の設計・製作など結構面白かったと覚えています。使った計測機器は電流計と熱電対で、計算手段は計算尺でした。大学院での研究課題は、その後の研究とつながります。

2.振動の測定

 大学院では希望通り亘理厚先生の研究室に所属しました。本会発足時の日本制御工学会ニュースNo.1(1976年6月)が手許にありますが、それによれば、亘理先生は本会の理事であり、かつ日本機械学会会長として祝辞を寄せています。また幹事の幸田彰先生は私の教養学部時代のクラス担任で、講義では図学を習いました。それはさておき、私は工作機械にも関心があり、学部時代の講義で工作機械の自励振動の話を聞いて興味を持っていました。丁度研究室に旋削の自励振動を研究している方がいたので、私は研削の自励振動を研究したいと考え、先生の許可を得ました。

 研削の自励振動の研究では、回転する被削材の振幅数10ミクロンの微小な振動を非接触で検出する必要があるので、私が使ったのは、静電容量型変位計でした。これは回転する被削材の近くに絶縁した電極を置き、電極と被削材の間の静電容量の変化から周波数変調で振動を検出しようとするものでした。振動の記録には、電磁オシログラフを使いました。一巻き25メートルの感光紙に振動波形を記録するもので、実験が一区切りすると暗室で現像したものです。

3.高速フーリエ変換

 研削の自励振動では、振幅は変動するものの、周波数は格別の分析をする必要もなく、一定時間内のサイクル数をオシログラフの記録から読み取ることで済みました。

当時工作機械の自励振動の発生理論として再生作用理論がありましたが、私はこれに疑問を抱き、それを立証するため被削材の回転数変動を精密に測定することを試みました。そのためモジュール0.3(歯丈0.675mm)、歯数400枚の歯車2枚を用いて周波数変調によって回転数変動を検出する装置を作りました。測定してみると、回転数変動の時刻歴は複雑な波形を示しており、詳しい周波数分析が必要になりました。そこでトラッキングフィルタを用いました。変動波形をデータレコーダで記録し、ある時間分だけテープを切り取ってループを作り、それを繰り返し再生してトラッキングフィルタに通し、フィルターの中心周波数を変えて周波数成分を読み取りました。今ならば高速フーリエ変換機器でたちまち出来てしまうことですが、当時はトラッキングフィルタが中心周波数可変の狭帯域周波数分析機器でした。

私の周囲で耐震問題を扱っていた人達は、不規則な地震波がゼロ点を横切る時間間隔から卓越周期というものを読み取っていました。不規則波形をフーリエ解析すれば周波数成分が求まることは分かっていましたが、電子計算機は既に現れていたとはいえ、フーリエ解析は計算機の能力上現実的な方法ではなかったのです。1965年に発表された高速フーリエ変換計算方法は周波数分析する者にとって画期的な手法でした。発表当初は高速フーリエ変換の計算機プログラムを自作した人もいました。私は高速フーリエ変換機器を購入して利用した組です。

4.有限要素法

 有限要素法の登場は、機械構造物の固有振動数や固有振動モードの計算に関してこれまた画期的な出来事と言ってもよいでしょう。これを使って旋盤の固有振動数や固有振動モードを計算したこともあります。既に大規模な一般解析ソフトが市販されていましたが、高価でした。それに大学の研究としては特定の解析対象について自分でプログラムを作るので十分であるし、教育の点から言うとその方が学生のためにもなったと思います。後年振動インテンシティの研究をしましたが、材料力学を専門とする同僚の助言を得て、薄板の剪断応力を十分考慮した有限要素を使ってプログラムを作りました。

5.おわりに

 博士課程の頃に、研究所にOKITACというメモリが確か4キロワードの電子計算機がありました。マシーンコードという言語でプログラムを作り、紙テープで入力しました。初めて使ったとき、計算の速いのに感動しました。

加速度計の進歩にも助けられました。振動インテンシティの計測などは、超小型の圧電素子型の加速度ピックアップがなければ、計測は困難でしたでしょう。

 こうして自分の研究生活を振り返ってみると、振動音響関連機器の進歩と計算手法の進歩に預かるところが大きかったと思います。表題のような一文を記した次第です。しかし何が面白かったかというと、現象検出のために対象に応じて自分で装置を工夫したことでしょう。

(大野進一:東京大学名誉教授・都立科学技術大学元教授・神奈川工科大学元教授)

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