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会員コラム

音を聴き・聞き歩 -小学生のサウンド・ウオッチングを指導して-(Vol.32 No.4)
音を聴き・聞き歩 -小学生のサウンド・ウオッチングを指導して-

音を聴き・聞き歩 -小学生のサウンド・ウオッチングを指導して-

音を耳から脳へ in put することに対して日本語では標題の様に「聴く」と「聞く」の2通りある。英語ではさしずめ“listen”と“hear” となるであろう。前者は対象に対して耳を傾ける、すなわち能動的な態度であり、後者はむしろ聞こえてくるのを受け止める受動的態度と言える。さて、こんな前置きをしたのは以下に、当地福岡市で私が子ども達を引率して身の周りの音を聴いて、或いは聞いて歩くという学校行事を行った経験を書こうと思っているからである。

数年前に福岡市環境局環境審議委員会のメンバーであったとき、環境局の主催で市内における多くの校区の中から幾つかの小学校を選び、先生方や保護者にも手伝って頂いて自分たちの校区内にはどのような音があるか、どのような音が鳴っているかを聴いて歩くことを行った。いわゆる sound watching である。すなわち今流行のウオークラリーの sound 版である。このようなことを実行する目的は身の周りに日常的に鳴っている音に改めて耳を傾けてみることにより、「この音は大切にしたい音だな」とか、「こんな音は無くしたほうが良いね」という音の選択、或いは整理をすることによって「良い音環境とはどんなものかな」を子ども達に考えさせる、そして気持ちの良い音環境の実現を、自分たちの人生の内容としてつなげて行くように教育するのが目的である。

この sound watching の方法としては生徒たちを数人のグループに分け、先生や保護者1,2名の同道をお願いして約2時間の行程である。ときには生徒のお喋りを注意することもある。短い時間の行程であるが、それぞれの生徒にどんな音に興味を持つかの個性があって面白い。そして体育館に戻ってきて予め準備された全紙大の校区白地図にマジックで色とりどりに書き入れる。その作業になると生徒達は実に楽しそうである。各人が聴いて来た音の記憶をたどりながら、そしてその時の周囲の状況や景色を思い浮かべている様子が子ども達の表情から伺える。すなわち景色と音が完全に頭の中で結び付いているのであろう。彼らが校庭から出て歩いて来た道は家並みを通って国道を横切り、松林の中を歩いて砂浜に出ている。したがって彼等が感じた音は静かな住宅地、通行人の話し声、自動車の音、松林の風、いわゆる松籟、浜に出て砂を踏む音、波の音など様々である。白地図への書き入れが終わると、各班の代表を決めて、自分たちの描き入れた図を説明する。面白いのは生徒たちがグループを作るのを見た保護者たちがまたグループを作ったことである。そして、保護者たちによる絵も出来上がった。さすが発表は遠慮しておられたが、完全に童心に戻っているように見受けられた。これぞ音を味わう楽しさ、魅力というものかも知れない。

子ども達を連れたこの sound watching は中央区天神の校区の生徒たちに対しても行った。これは西区地帯の比較的閑静な雰囲気とは全く異なる異質の音環境である。そこで育った生徒達は全く異なる音感覚を持っている様だった。聞こえてくるのは車の音ばかり、人の声も全くかき消されて喧騒そのものの音世界であった。この校区の生徒たちが白地図上に音源を描いたのは、自動車ばかりの絵であったと記憶している。

しかし以上の話は、視覚健常者のことであって、視覚を失っている人の聴覚は全く別であるらしい。私がかつて指導していた合唱団にある日全盲の女性が入団した。勿論介護の人に手を引かれてであるが。団員の歌うのを1,2回じっと聴いていたと思ったら皆と同じ歌声で歌い出したのである。また、福岡でベートーベン第九を指導するのは度々であるが、全盲の方が入団して来られて、どうされるのかなと思っていたら完全に暗譜していて、しかも私の指揮の動作が全て勘で分かるらしく、他のメンバーと全く変わらぬテンポとリズムで楽しんでいたのには、むしろ感激を覚えたものである。話題が外れたみたいだが、感覚の優れた特徴を存分に生かして日常生活を送ることが如何に大切であるかを言いたい。視覚もさることながら聴覚を最大級に大切にしたい。そして折角我々は音に囲まれているのであるから、周囲の音を注意深く聴いて、また聞こえてくる音にそれとなく、或いはじっと耳を傾けて味わう。それらの音は時にうるさかったり、また心地よかったり、そして周囲の音に対して様々に価値判断を下しながら生活したいものである。

(九州芸術工科大学名誉教授 佐々木 實)

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