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公益社団法人 日本騒音制御工学会

会員コラム

空気調和ダクト系騒音の予測に向けて(Vol.32 No.5)
空気調和ダクト系騒音の予測に向けて

空気調和ダクト系騒音の予測に向けて

1.はじめに

平成17年5月,はからずも「建築設備の騒音制御に関する一連の研究」に対して平成16年度の研究功績賞受賞をいただき誠に光栄に存じます。ご指導・ご鞭撻・ご支援をいただいた日本騒音制御工学会の皆様に深く感謝申し上げます。私の研究は「建築の空気経路とその騒音制御の計画」を軸とする狭い領域に過ぎず、しかも,断片的に食い散らかしてきただけですから後ろめたいものを感じざるを得ません。しかし,折角の機会ですから,ここでは「空気調和ダクト系の空気伝搬音の予測」に限定して、どこでもがき苦しんでいるのか、積年の悩みを吐露させていただくことにします。

2.現状と音響パワー法の限界

上記予測に関しては,手計算がコンピュータで実行されるようになったことを除けば,私が大学院の学生であった1960年代に既に体系化されていたASHRAE(米国の空気調和・冷凍工学会)のガイドブックの内容から殆ど本質的進歩がない。その計算体系は主音源の送風機から順次ダクト要素ごとにオクターブバンド音響エネルギー授受を加減算していく、いわゆる音響パワー法である。しかし、空気調和ダクト網の場合、この音響パワー法は基本的に低・中音域への適用ができない。さて、どうしたらよいか。

以下には、送風機接続ダクト(ダクト断面寸法1m程度)からから吹出し口接続ダクト(ダクト断面寸法20cm程度)にかけて、分岐を通じて徐々に先細りになる一般的な空気調和ダクト網を想定して具体的に述べる。

3.高音域(音響パワー法)

音響パワー手法は、本来、統計的エネルギー解析法に相当してダクト網がモード密度の高い(以下、密モード)ダクトで構成されることが前提になる。その適用限界はダクト網の中の小断面ダクトによって決まる。各モードの個性が無視されるために必要なモード密度の目安として5モード以上を要求するとすれば,音響パワー法は、ダクト寸法20cmに対する2次モードcut on周波数、すなわち、約1.7kHz以上の高音域でしか成立しない。

4.低・中音域(波動法)

約1.7kHz以下の周波数領域ではモード数4以下の疎モード状態のダクトが含まれ、基本的に波動法に依らざるを得ない。直角曲りにおいて、低次モードの波(波面の進行方向がほぼ軸方向)はそのほとんどが反射して透過率は小さく、主としてより高次モードの波(波面進行方向が軸直交方向のクロスモード波)として伝搬していく。一方、クロスモード波が入射するときには反射は小さく、大きな透過率でより低次モードの波が伝搬していく。すなわち、透過率はダクト伝搬モードに強く依存する。音響パワー法ではそれを考慮できない。

5.ダクト要素の音響特性データ

そこで約1.7kHz以下の周波数領域では波動法ということになる。しかし、現実には波動法に対応可能なダクト要素音響特性(透過・反射率と発生音)データが存在しない。その測定・整備が必要であり、それこそが、ここで取り上げたい課題である。

5.1 全接続ダクトが疎モードの周波数域

分岐ダクトの場合、各モードの外向き波及び内向き波の複素振幅の総数は4(モード数)×2×3(接続ダクト数)=24、その係数行列の要素(反射率と透過率)数は122に達する。この同定には試験信号音により各モード内向き波の複素振幅の比率を12通り変化させ、それぞれについて総数12×2の各モード外向き波及び内向き波の複素振幅の分離検出が必要である。発生音を伴う音源要素の場合には、能動的特性を求めるためさらに試験音停止状態において各モード外向き波及び内向き波の複素振幅を測定する。

このような疎モード接続ダクト間の音響特性データが全ダクト要素について整うならば、断面寸法1mのダクトの2次モードcut on周波数、すなわち、約340Hz以下の周波数範囲では、ダクト網全体を通じて波動法が可能になる。

5.2 密モードの接続ダクトと疎モードの接続ダクトが混在する周波数域

残る約340Hzから約1.7kHzにわたる周波数範囲ではダクト網に密モード状態のダクトと疎モード状態のダクトが混在する。その領域については妥協的な手法を採用せざるを得ない。最も単純には、音響パワー法による音源側の密モードダクトから波動法による透過側の疎モードダクトへの一方通行のパワー透過率のみ考慮する手法が考えられる。このとき密モードから疎モードに移行するダクト要素では、その音源側のダクト網は音響パワー法、透過側のダクト網は波動法で処理することになる。

6.ダクト要素音響特性データの整備

以上をまとめれば、ダクト要素の音響特性を表わす音場量は周波数域により異なり、(a) 全接続ダクトで音響パワー、(b) 接続ダクトにより音響パワーとモード振幅の混在、(c) 全接続ダクトがモード振幅の3つタイプに分類される。タイプ(a)は既存データが豊富である。一方、 タイプ(b)と(c)、すなわち、波動法に対応し得る「ダクト要素音響特性」データは1次元波動(0次モードのみ)に対するデータを除けば殆ど無に等しい。その測定・整備について私自身には残された時間が少ない。若い会員の皆さんの取り組みに期待したい。

(神奈川大学工学部教授 寺尾道仁)

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