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時間帯補正等価騒音レベル(Ldn,Lden)は,騒音レベルに夕方の時間帯は+5dB,夜間の時間帯は+10dB の重みを付けて,1日の等価騒音レベルを算出して求めますが,これらの補正の根拠はあるのでしょうか。(Vol.37 No.4)

(横浜国立大学名誉教授 田村明弘)

アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は,1972 年騒音規制法に則り連邦議会から要請された 2 つの相互に関連ある責務を,1973 年に「騒音に関する公衆の健康と福祉クライテリア1)」,1974 年に「公衆の健康と福祉を十分な安全幅で保護するのに必要な環境騒音レベルに関する情報2)」の公表により果たした。

この中で EPA は 7 つの判断基準を設定し,A 特性等価騒音レベルが環境騒音の大きさの最良の物差しであると判断した。その上で,住居など長時間にわたり人々が環境騒音に曝される地域や状況下で,会話,睡眠その他の日常活動妨害による慢性的なうるささと関連づけるために,夜間の睡眠時に 10 dB の重みを付けた 1 日 24 時間の等価騒音レベルであるLdnを採用した。1 日を昼,夕,夜に 3 分して夕方 5dB,夜間 10 dB の重みを付ける Ldenについても検討しているが,2 分法と 3 分法で得られる数値の差が極めて小さいことから簡便な Ldnを選択した。

この Ldnは,Von Gierke らが EPA の依頼により蓄積する騒音暴露を適切でかつ簡潔に定義し測定する手法として開発した成果である。夜間 10 dB の加重は,世界中の多数の騒音評価法3)に取り入れられていた実績を考慮したことと,Ldn,Ld,Lnからなる 63 組の環境騒音の調査結果に基づくものである。Ldnが 55 dB 未満の低騒音レベル地域では Lnの自然低下は約 10 dB であるため,Ldと Lnは同等に Ldnに寄与する。しかし騒音レベルが高い地域では Lnの低下は僅かであり,LnがLdnを支配する。このため騒音基準を順守しようとすれば,夜間の加重が 1 日 24 時間にわたって騒音レベルを引き下げるように圧力をかけることになる。

更に,EPA は 55 の地域社会での騒音測定結果と苦情や訴訟との関連を解析した報告を基に,「10 dB程度の夜間加重を正当なものと実証できる。10 dB加重時に比べ夜間加重を全く適用しないときは関連性が悪化した。しかし,夜間加重が 8 dB から 12 dBの間では差異は認められず,これ以上細かく夜間加重を決定できるものではない。」と指摘している。わが国の初期の騒音防止条例4)でも夜間は睡眠を妨げない程度の小音とする,他の時間も付近の暗騒音より 10 dB をこえてはならないとするなど,夜間重視,暗騒音との相対性の考えが散見される。

B. Berglund と T. Lindvall が編集し WHO に向けて用意した 1995 年文書「生活騒音」5)は,発生時間重みについて,「同様の騒音環境でも,昼間より夕方又は夜間には住宅地域により煩わしさをもたらすとしばしば仮定される。夜間に重みを加えることは,したがってLdnのようないくつかの騒音指標に含まれている。合計 22000 人の回答者からなる 10 の研究の分析は,夕方及び夜間騒音が煩わしさに多少大きな影響を及ぼすかもしれないというある証拠を見いだした。(Fields, 1985,1986)

しかし,この違いの大きさの有意性は示されることはできていない。Ldnや騒音暴露予測(NEF)のように多くの累積的な騒音指標では,昼間の騒音に比べ夜間の騒音に 10 dB の重みが加えられる。夕方時(通常午後 7 時と 10 時の間)の煩わしさをさらに取りいれている騒音指標は,測定した騒音レベルに5 dB を加えている。
Ldnが導入されたとき,夜間の騒音に重みを付けるために次の 3 つの理由が主張された。

  • 1)生活騒音は,昼間より夜間において,より煩わしいと知覚される。
  • 2)夜の睡眠のための低い騒音レベルの要求は,暗騒音が通常夜間に減少しているために,より一層の騒音低減を動機づける。
  • 3)夜中の屋内での活動が低くなればそれだけ,より低い騒音レベルであることにつながる。

多くの研究が上記理由 2),3)を確認する。すなわち,低レベルの暗騒音下では,騒音源からの煩わしさが増大する。昼間の騒音暴露と夜間の睡眠の質との関係が示唆された(Blois, Debilly & Mouret,1980)が,夜間の騒音がどの程度昼間の騒音に関連して重み付けされなければならないのか経験的に示すことはできなかった。オーストラリアの飛行場近くでの社会学的研究(Bullen, Hede, 1983)は,騒音の非妨害への要求は午後 6 時から 9 時の間で最も重要であることを見いだした。」と報告している。

以上をまとめてみると,Ldn,Ldenは

  • a)24 時間の累積騒音暴露をエネルギーベースで評価している。
  • b)長時間にわたる日常活動への妨害による慢性的なうるささに関連する。
  • c)夜間(加えて夕方)の騒音源からの煩わしさ増大を夜間 10 dB(加えて夕方 5 dB)と見込んでいる。

騒音の大きさがうるささの第 1 要因であることは広く認めるところであり,a),b)を導くものである。他方 c)項は,5 dB は 1 ランク,10 dB は 2 ランク地域社会反応の増大に相当するペナルティであるという経験知に依るところが大きく,世界的暗黙知である。

  • 1 )EPA, Public Health and Welfare Criteria for Noise,1973
  • 2 )EPA, Information on Levels of Environmental NoiseRequisite to Protect Public Health and Welfare withan Adequate Margin of Safety, 1974(全訳 : 東京都公害研究所,海外公害情報シリーズ(15),1978)
  • 3 )日本建築学会編,騒音の評価法─各種騒音評価法の系譜と手法─,1981
  • 4 )横浜市騒音防止条例(1953),京都市騒音防止条例(1954)等
  • 5 )Edited by Birgitta Berglund & Thomas Lindvall, CommunityNoise, Stockholm, Sweden, 1995

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