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母集団の数はどの程度必要か。(Vol.40 No.4)
Vol.40 No.4

(熊本大学大学院先端科学研究部 矢野隆)

騒音の社会調査に関して, 1) 母集団の数はどの程度必要か,2)回答率はどの程度あれば代表性があるか, という2つの質問が寄せられています。母集団と回答率(回収率)が分かれば, 回答数が分かりますので,質問1)の母集団の数は以後回答数と読み替えることにします。両質問に関して明確な回答はないと思いますが, 両者とも大きいほどよいことは確かです。 では, どの程度必要かは調査の目的と予算によると思います。

騒音に関する社会調査の主要な目的は, 騒音の暴露量と反応(一般には%Highly Annoyed(%HAと略記,非常にうるさいと反応した人の割合))との関係を求め, その成果を騒音政策に反映させることです。 また, 回答者の選定方法としてランダムサンプリングが望ましいことは論を待ちません。実際にランダムサンプリングを行って広域に実施した調査もありますが1), わが国では膨大な労力と費用を要します。通常は,騒音の暴露量が広範囲に及ぶように地区を選定し, 地区ごとに回答者を選定します。地区ごとに%HAを求める場合, ある研究者は1地区あたり100∼150名必要であると主張しますが, 筆者は50名は必要だろうと思います。ただ, 地区ごとに50名から回答が得られない場合もあります。最近, わが国で行われた風車騒音の影響に関する調査2)では1地区あたり10数名から40名程度でした。このような場合でも全体で数百程度(風車騒音調査では747)回答を集めることができれば,安定した暴露反応関係を求めることができます。

筆者はこれまで欧米諸国や日本で行われた代表的な社会調査を参考として調査を行ってきました。社会調査を始めた1990年代には約80%の回収率が得られましたが,徐々に減少し,2000年代の調査でも60%以上の回収率がありました。2010年から2012 年に行った前述の風車騒音調査では約50%, 同時期に行った九州新幹線調査3)では約30%でした。回収率は時代とともに減少する傾向にありますが,調査方法や調査場所でも異なります。ここ10年にわたってベトナムで行った調査4)では回収率は全体で80%以上, 調査によっては90%以上です。やはり,回収率は50%以上を目指して, インタビューの方法を工夫すべきでしょう。

2011年には騒音制御工学会に社会調査データアーカイブが設立され, 日本の社会調査データを収集し,広く利用に供する体制を整えられましたので,参照してください5)。これまで23のデータセットが収集されましたが, そのうち回答数と回収率の両方が示されている調査は16あり,回答数は181∼1,828,回収率は45%から80%に及びます。Miedema とVos6)は当時世界で行われた20の航空機騒音調査,26の道路交通騒音調査,9の鉄道騒音調査のデータセットから3つの騒音源に関する代表的な暴露反応関係を提案し, これらはEUの騒音政策に反映されています。 これらの調査の回収率は示されていませんが, 回答者数は71∼4,515に及びます。さらに, Bassarab ら7) は世界で行われた騒音に関する628の社会調査のカタログを発表しています。 その中にも回答者数が示されていますので, 参照してください。

ところで, 質問者は今後騒音に関する社会調査を計画されておられるのでしょうか。もしそうなら,ISO TS156668)を参考にされるとよいと思います。そこには調査方法の概要と標準的なアノイアンス質問が示されています。 その日本語の質問文は難波他9)や拙稿10),11)を参照されるとよいでしょう。また,前述のアーカイブの調査概要チェックシートにも主要な質問文が示されています。 この質問文を採用すると, そのデータは国内だけでなく諸外国の同じ調査方法を使った社会調査の結果と直接比較が可能であり,将来的に騒音政策の議論に供することができます。また,調査・分析が終了後に, データセットを前述のアーカイブに寄託していただければ, その成果は将来にわたって学術的および社会的に貢献することになるでしょう

参考文献
1)M.Brink et al.:Annoyance responses to stable and changing aircraft noise,
J.A.S.A.,vol.124,no.5,pp.
2930-2941(2008).

2)S.Kuwano et al.:Social survey on wind turbine noise
in Japan,Noise Control Engr. J.,vol.62,no.6,pp.503-
520(2014).

3)村上泰浩ほか:九州新幹線および隣接平行 JR鹿児島
本線の騒音・振動に関する社会調査, 日本騒音制御工
学会2014年秋季研究発表会講演論文集,pp.85-88
(2014).

4)T.L.Nguyen et al.:Exposure-response relationships
for road traffic and aircraft noise in Vietnam,Noise
Control Engr. J.,vol.64,no.2,pp.243-258(2016).

5)http://www.ince-j.or.jp/old/04/04_page/04_doc/bunkakai/
shachodata/

6)H.M.E.Miedema,H.Vos:Exposure-response relation-
ships for transportation noise, J.A.S.A.,vol.104,no.6,
pp.3432-3445(1998).

7) R.Bassarab et al.:An update catalog of628social sur-
veys of residents’reaction to environmental noise
(1948-2008),Wyle Report WR 09-18(2009).

8)ISO/TS15666,Acoustics─Assessment of noise an-
noyance by means ofsocial and socio-acoustic surveys,
First edition2003-02-01(2003).

9)難波精一郎ほか:調査研究委員会報告 音環境に関す
る調査票改訂版の提案─(社)日本音響学会・社会調査
手法調査研究委員会報告─,日本音響学会誌,vol.62,
no.4,pp.351-356(2006).

10)矢野隆ほか:騒音の社会反応の測定方法に関する国際
共同研究─日本語のうるささ尺度の構成─, 日本音響
学会誌,vol.58,no.2,pp.101-110(2002).

11)矢野隆ほか:騒音の社会反応の測定方法に関する国際
共同研究─日本語のうるささの程度表現語の妥当性
と質問文の作成─, 日本音響学会誌,vol.58,no.3,
pp.165-172(2002).

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