日本騒音制御工学会は、騒音・振動およびその制御に関する学術・技術の発展と普及を図り, 生活環境の保全と向上に寄与いたします

公益社団法人 日本騒音制御工学会

Q&A

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流体では流れを乱さない事が騒音を 抑えるこつの様ですが,逆に流れを乱す事で騒音を抑える事は可能でしょうか。1)一様流中に球がある場合,層流よりも乱流の方が剥離点が球の後方に移り, 渦が生じ難く抵抗も少なくなる(ゴルフボールのディンプルは流れを乱し剥離 を抑える)。2)飛行機の翼にも,境界層の発達とその末に起きる剥離を抑えるために, Vortex Generatorなる小突起を付けて流れを乱す。以上の2点を聞いた事があります。剥離に因って生ずる渦と音の関係を詳し く教えて下さい。
                                  (楽器メーカ社員)

((株)荏原総合研究所 丸田芳幸)

流体の非定常な動き(流れ)から発生する音(流力発生音または流体音と呼ぶ) を抑える方法として、流れを乱すことで発生音を低減できる場合もあります。 特に物体周りのはく離流れのように流れの構造が複雑な場合には、あえて規模 が小さい流れの乱れを作ることではく離域を縮小できたり、乱れの相関スケー ルを小さくできる場合には、この方法は有効です。

ご質問の中で示されている2つの事例は流体音の低減ではなくて、はく離流 れの制御方法として良く知られていることです。まずこの2事例について補足 説明をします。物体表面(流体中の固体境界面)上にはく離流れが発生すると流 体抵抗が増加するので、これを防ぐ手法が幾つか解明されています。一方、境 界層流れには層流境界層と乱流境界層の2種類があり、はく離流れが発生する タイミングは乱流境界層の方が遅く(下流側に)なることが解っています。そこ で、事例2)のように飛行機の翼面においてはVortex Generatorと呼ばれる小さ な突起を装着して、翼面上の境界層を乱流境界層に遷移させることではく離流 れの発生をより少なくしています。これにより翼の揚力を大きくすることがで きます。また事例1)のように球体の表面に乱流境界層が発生するようにすると 球体後面のはく離域が小さくなって、流体抵抗の低減につながります。但し、 ゴルフボールのディンプルははく離流れの低減ではなくて、回転するゴルフボー ルに伴う循環流を多くすることで揚力を増加させ、飛距離を延ばすという理解 が一般的です。

物体周りの流れにおけるはく離流れの定義はかなり広いものですので、はく 離流れに伴う流体音と称する音にも各種あります。流れの中にある物体の後流 には反対回りの渦が交互に並んだカルマン渦列がしばしば発生します。これも はく離流れであり、この渦放出流れから発生する流体音をエオルス音と呼びま す。エオルス音を低減するためには2つの方法が代表的です。一つは干渉板を 後流中に設置してカルマン渦列の発生を抑制する方法です 。もう一つは渦の 相関長さを短くする方法です。渦列のそれぞれの渦は物体の軸方向(流れの幅 方向)に同時性を伴った或る長さを有しているので、同時性が保たれる渦の長 さ(渦の相関長さ)をより短くする(渦を崩す)と発生音の強度が低下するもので す。例えば、物体を流れ方向に傾斜させるとか、物体表面の粗さを局所的に変 えるとか、表面に微小突起を設けるなどで相関スケールを小さくします。渦列 流れではない一般的なはく離流れにおいても流れの乱れを様々な短い渦の流れ によって置き換えることができ、これらの様々な渦(乱れ)の同時性を有してい る領域が広いほどはく離流れから発生する流体音も大きくなる傾向があります。 したがってはく離流れを同時性が小さい(相関スケールが小さい)乱れの集まり にすることができれば、この流体音も低減可能です。しかし、相関がなくても 流れの乱れが存在しているのですから、発生する流体音を無にすることはでき ませんし、規則正しい渦流れを崩すことによって得られる流体音の低減効果の ような顕著な低減は期待できません。事例1)のように球体周りのはく離流れの 領域を縮小できるのであれば、強制的な乱流を与えることではく離流れ音を低 減可能と推察します。

少し観点を変えると、「音源の密度」と「音源の広さ」の積が「発生音の強 さ」であると理解できます。「音源の密度」が流れの乱れの強さであり、「音 源の広さ」が流れの乱れの相関スケールに相当します。はく離流れの乱れを弱 めることが発生音低減のための主課題ですが、現実的な流れでははく離や乱流 を存在させないことは不可能ですので、流れの乱れの相関スケールを小さくす るように流体を制御する(乱れを強制的に与える)方法を考案するほうが、流体 音の低減には効果的であると考えます。但し、その制御のための装置が新たな 流体音の発生源になるのであれば、用いる意味がありませんので注意が必要で す。これらの定量的な関係は未解明ですが、詳細に関しては流体音と流れの乱 れとの関係を解説した、望月・丸田著「流体音工学入門」(朝倉書店)が参考に なると思います。

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