ある音の最小可聴値が同時にある他の音のために上昇すること である。そのときの域値の上昇量をデシベルで表わしたものもマ スキング(あるいはマスキング量)という。例えば,うるさい場 所で小さい音が聞こえなくなったり,会話音が聞きづらくなった りすることである。なおマスキング(masking)には域値上昇に 伴って聞こえなくならないまでも音が小さく聞こえることも含ま れる。域値の上昇が問題になる音Aをマスクされる音(masked soundあるいはmaskee),これを引きおこす音Bをマスクする音 あるいは マスキング音 (masking soundあるいはmasker) といい,BがAをマスクするという。
この現象はマスクされる音,マスクする音それぞれが,純音, 広帯域雑音,狭帯域雑音,会話音,衝撃音など種々の音であり得 るから,その組み合わせにより生じるマスキングの有様もいろい ろである。更に医学的見地からも,同一の耳にマスクされる音A とマスクする音Bとが与えられた場合(これは普通にいうマスキ ングに同じと考えてよい),AとBとが別々の耳に与えられる 場合,一方が骨導音である場合などがある。
以下同じ耳に両方の音が与えられるときのマスキングについて 簡単に説明する。純音が純音をマスクするとき,マスクする音の 周波数に近い音ほどよくマスクされるが,2つの音の間でうなり が感じられるようになるとマスキングは減少する。マスクする音 の音圧レベルが上るとその近くの周波数の音のマスキングもほぼ 同じ程度大きくなるが,周波数が少ない側の音のマスキングはそ れほど増加しないのに,周波数が多い側の音のマスキングはかえ って増加が著しいことがある。したがって一般にマスクする音よ り周波数が少ない範囲よりも多い範囲の音がマスクされやすいこ とになる。
極めて帯域幅の狭い周波数範囲にいくつかの純音がある場合や, その範囲に連続したスペクトルをもつ狭帯域雑音は,その帯域の 中心周波数にあって,その複合音あるいは狭帯域雑音と同じ音圧 をもつ純音によるマスキングとほとんど同じである。しかしこの 場合はうなりの現象がないので中心周波数付近のマスキングはそ の周波数の純音によるマスキングよりもずっと大きい。(注 帯域 の中心周波数fcは帯域の両端の遮断周波数f
1 ,f2のときfc= √f1f2 ,帯域幅はf
2>f1としてf2− f1)
スペクトル音圧レベルが一様な広帯域雑音(白色雑音)は広い周波数範囲の純音をマスクするが,最小可聴値のレベルが低い2kHz〜4kHz付近のマスキングが一番大きく,可聴周波数の上限や下限に近づくとマスキングは減少する。周波数が少ない範囲でのマスキングは雑音のレベルが低いときには小さい。極めて特徴的なのは,そのような広帯域雑音があるとマスキングの影響を受けた純音の最小可聴値が周波数によらず一定値に近くなることであり,雑音のレベルが上昇すればマスキングもほぼ同じだけ上昇する。ただし,広帯域雑音の音圧レベルでいうと同じ音圧レベルの雑音に比してマ スキングは少ない。これは周波数が離れたところの成分はマスキ ングにほとんど寄与しないからと考えられる。どのくらいの周波 数範囲の成分がマスキングに寄与するのかはあまり明確ではない が,その帯域をマスキングの臨海帯域(critical band for masking) という。